三つ葉のクローバー | ナノ
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時計の短針が9を回ったのを確認して携帯電話を取り出す。呼び出し音が3回程鳴った後、電話の向こうが少しだけ騒ついた。

「もしもし!」
『はいよー、もしもーし』

そういえば今日は散々な一日だったなぁ。でも校内迷路はヒュウガ先輩というイケメンによってなんとか脱出することができたし、明日も迎えに来てくれるというし、これからまた頑張れそう。にしてもヒュウガ先輩を優しすぎると感じてしまう辺り私も大概帝光の方針にやられていたみたいだ。
ブツブツと呟いていると電話の向こうで誰かが吹き出したのがわかった。誰か、というか言わずもがな電話の相手だけれど。相変わらずツボが浅いというかツボがおかしいというか。…おいそろそろ笑うのやめろ。
幼馴染には逐一電話でその日のことを報告していて、今でもそれは変わらない。中学時代はこの人にそれはもう沢山の話を聞いてもらった。この人は優しすぎるところがあるからつい甘えてしまうけど、いい加減一人でも頑張れるようになりたい。いつまでも迷惑をかけるわけにはいかないし、子供扱いはそろそろやめて欲しいからね。でも、まだ今は…なんでそれがもう子供か。

「あのね、これ言ったらまた笑われると思うんだけど」
『ブッ!悪いなんか予想できた。笑っていい?笑っていいよな?』
「もー…じゃあ言わない」
『ぷくくっ…どーせ迷子だろ?ごめ、っちょ、ちょっと待って』

笑いを堪えたのか噎せて咳き込んでいるのが聞こえてムッとする。何も言っていないのにどうして伝わってしまうんだろう?…なんだか腹が立ったので、終始緩んでいる自分の頬を無理矢理引き締めて溜息を吐いてやった。高校に入学してからはお互いに忙しくてゆっくり話す時間がなかったからこうして電話をするのも久し振りだ。ちょっと嬉しいだとかは絶対に言ってやらない。

「で、でも、イケメンな先輩に助けてもらったし!」
『あー笑った…で、なに?イクメン?』
「イ ケ メ ン!」
『オレよりイケメン?』
「……同じくらい」
『え、そこはそんなことないって言うところじゃね?』
「…助けてくれたもん」
『そもそもサヤカちゃんはオレがいたら迷子にならなかったんですけど?』
「それは…そう、だけど」
『なんで同じ高校に来ないかねーサヤカちゃんの天邪鬼め』
「だ、だって……」

声が掠れてしまいなんだか湿っぽい空気が流れる。能天気そうで誰よりも私のことを気にかけてくれているのを知っている。だからこそ、私は彼とは別の高校を選んだ。まぁそれは理由の中の一つにすぎず、大半はそこの学校は勉強が大変そうだし勉強も大変そうだからやめたのだけど。だって勉強は嫌いだ。私は平凡に何事もなく高校生活を送りたいのだ。…まぁバスケ部に入ってしまった時点で忙しくなることは間違いないのだけど。あーあ、当初の予定が全部パーだ。まぁでも、黒子くんがいるというのは救いだったな。何と言っても私の数少ない友達の一人!!

『あー…そだ、友達できそ?』
「んと…中学の時の友達が、偶然一人いたの」
『…そっ、か。あ、でも学校は違うけど俺が話し相手になってやるし、いつでも電話待ってっからさ!』
「うんありが……ってそれ、私には友達出来ないって言ってるでしょ!できるし!見てろ!」
『…え……マジで言ってる?』
「そのトーンで言われるとシンプルに傷付くな!?」

ごめんってー、と軽いにもほどがある謝罪に悪態を吐きながらも、やっぱり頬はだらしなく緩んでしまう。ぱちん、と頬を叩けば思ったよりも痛くて変な声が出てしまった。『ぶははっ!どしたー?』「油断しながらほっぺ叩くと相当痛いよ」『あーうん了解、肝に銘じとくわ』この男は口が上手い。私の気を楽にさせるよう話を進めていたことを、私はいつも後になって気付くのだ。全くもって憎らしい。嫌いになれないところが嫌いだ。あっかんべー。『何変なこと考えてんの』「…考えてないし」…何故バレた。

『俺さー』
「?うん」
『やっぱ高校はマジでバスケ頑張るわ』

ああそうだ。マネージャーさえやっていればこの人の活躍を近くで見れるかもしれない。うん、やっぱりマネージャーになってよかった。沢山乗り越えてきたものを、私は知っているから。同じ学校じゃなくても、せめて近くで見ていたい。

「そっか。忙しかったら無理して電話しなくていいからね」
『いやいいって。今更何気遣ってんだよ、これからもっと会えなくなんだろ?電話くらいしかできねーのに』
「…うん。ありがと」
『…まぁでも、なんかあったらすぐ呼べよ。会いに行けねー距離じゃないんだし?』
「……やっぱり同じ学校がよかった」
『…困った子だな、サヤカちゃんは』

耳元でふっと息を吐く音が聞こえて、なんだか落ち着かない。

「……会いたい」
『オレだって会いてーわ』
「……もうやだ、寝る」
『…おう、おやすみ』

一緒に沢山、乗り越えてきたから。


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