三つ葉のクローバー | ナノ
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今日は朝から曇天でずっと湿度が高かった。湿気の多い日は髪質が悪くなるから好きじゃない。
部活が始まる頃にはかなりの量の雨が降っていて、ヒュウガ先輩は溜息を吐いていた。今日は終礼も早く終わり、今は約束通り迎えに来てくれた先輩と共に仕事内容を確認している。なんとも優しい先輩だ。

「ドリンクの好みとかは徐々に合わせていきますね。思ったより部員数も少ないのでアップのお手伝い等もできそうです」
「お、おお…流石元帝光…」
「うっ…それやめてください…帝光は部員が多い分マネージャーも多かったので一人での仕事は私も初めてなんですよ。あんまり期待しないでください」

特に一軍には効率良く仕事ができる人たちが選ばれていたけど、マネージャーでさえも選抜なんてあそこの部活本当どうなっていたんだ。というか私よく一軍にいられたな。ほぼ毎日迷子になって遅刻していた気がする。そして毎日選手と共に走らされていた気がする。…あれ?私まともに仕事したことってあったっけ?

「あんまり気負う必要はないわ。元々ここはマネージャー無しでやってきてるし、みんなで協力しながらやっていきましょう」

いつの間にか現れたカントクに驚きつつ、カントクの言葉に歓喜する。優しい、優しすぎる!そして可愛い!!

「私…頑張ります!」

ポンポン、と先輩が頭を軽く撫でてくれた。カントクも小さく笑ってくれた。なんかもう泣きそうだ。

「に、しても…ロード削った分練習時間余るな…どーする?カントク」

三人で見上げた空からは変わらず雨が降り続けていて、とても外に出られる状態じゃない。…傘持ってきてたかなぁ。

「ちょうどいいかもね」
「へ、何がですか?」
「5対5のミニゲームやろう!一年対二年で」

ニヤっと笑ったカントクに便乗しておーっ!と拳を突き上げていたら仕事しろと早速怒られた。またもや既視感。
…ん?一年対二年?一年生?

「ぬあっ!?」
「な、なんだよ今度は…」

突然声をあげた私にも最早慣れた対応をしてくれる先輩に感動しつつ、振り返って体育館を見渡す。そういえば私、昨日は迷子になっていたから部員の方と顔を合わせるのは初めてじゃないか。
一人ひとりじっと顔を確認していくと誰しもがなんだあいつ、という目で私を見ている。特にあの大きい人。何故眉毛が二本ある…ってそうじゃなくて…
はっ!いた!相変わらず見つけにくい。

「黒子くん!」
「!…橙乃さん?」

黒子くんの元に駆け寄ると、周りから驚きの声が上がった。私と黒子くんが知り合いなことに驚いたのか、黒子くんの存在そのものに驚いたのか。…多分後者。影が薄いところは変わっていないらしい。まるで信じられない物をみるように目を見開いている黒子くんに笑って見せると、どこか安心したように黒子くんも笑ってくれた。

「黒子くん、元気だった?」
「はい。…すみません、同じ学校だと知っていればもっと早くに挨拶できたのですが…」
「ええっ、黒子くんが謝る必要はないよ!進路先を誰にも言わなかったのは私だもん」

私も黒子くんが誠凛を受けたこと知らなかったからお互い様でしょ?そう言えば相変わらずですね、と眉を下げて笑われた。おうとも、私はそんな簡単に変わるような人格の持ち主ではないと自覚しているからね、相変わらずですよ。

「…それにしても、橙乃さん、またマネージャーするんですね。驚きました。」
「…まぁ、無理矢理入れられた感じだけど」

苦笑いしてみれば、黒子くんもなんとなく察してくれた。帝光時代から黒子くんとは仲良くやっていたけど、…色んなことがあって会う機会がなかった。本当に、久しぶりだ。

「…また、黒子くんのバスケが見られるんだね」
「そうやっていつも楽しそうに見て頂けるのは嬉しいです。僕も橙乃さんがまた走らされているのを見れると思うと楽しみで仕方がありません」
「相変わらずのドSっぷりだね!?」

やっぱり私は走らされる運命なのだろうか…
がくん、と項垂れていたら黒子くんが小さく笑ったのがわかった。すっかり立ち直っていたみたいでよかった。一時期はどうなることかと思ったけれど、大丈夫そうだね。

「お取り込み中悪いんだけど、ミニゲーム始めるわよ」
「あ、じゃあ私スコアボード持ってきますね」

カントクの声に項垂れていた頭を上げて倉庫に向かう。後ろでヒュウガ先輩とカントクが私のことを紹介している声が聞こえた。後でちゃんと自己紹介しよう。
カラカラとスコアボードを持って戻ってくると、何故か一年生が顔を青くしていた。…この短時間に何があったんだ。

「ビビることじゃねー。相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ!行くぞ!!」
「わあ、やる気満々だ」

大きい人は完全にやる気で、加減という言葉を知らなさそうだ。一言で言えば熱い。
率先して前に出たと思えば、ジャンプボールを先輩から勝ち取った。…凄い飛躍力、かも。一人で突っ走ったかと思えば、思い切りダンクを決めた。ダンクは派手好きがすることだと誰かが言っていた気がするけど、誰だったかな。
…それにしても、さっきからゲームはあの大きい人だけで進めている。決して他の一年が弱いわけではないと思うから、そうなると原因は…

「スティール!?またあいつだ!」
「しっかりしろー!!」

「…ですよね」

やっぱり黒子くんだ。相変わらず基礎技術がまるでなっていない。あれで無敗の帝光中一軍レギュラーだったなんて、確かに誰も信じないと思う。一番イラつく、と言いながらダンクを決めたあの大きな人は相当黒子くんにストレスを溜めている。そりゃそうか。
でも、一人でなんでもしようとすると…

「そろそろ大人しくしてもらおうか!」

「三人!?」
「そこまでして火神を…」
「しかも…ボール持ってなくても二人!」
「ボールにも触れさせない気だ!」

抑えられた時に、逆転を余儀なくされる。
バスケは一人でやるスポーツじゃない。いくら一人だけ上手くてもチームが多少機能していなければ、勝てない。エースが周りを生かすか、エースを周りがフォローするか、そこはそれぞれのチームの戦略だと思うけど。
…まぁあのカラフル集団は別か。一人で何人分くらいの力なんだアレは。…もう関係ないか。忘れよ。

「やっぱり強い…」
「てゆーか勝てるわけなかったし…」
「もういいよ…」
「……もういいって…なんだそれオイ!!」
「あああ、ゲーム中に揉め事は…」


「落ち着いてください」


止めに入ろうかと頭を抱えた時、彼の膝がかくん、となった。所謂膝カックンだ。流石黒子くん、怖いもの無しだな。大きい人は青筋を立てている。あ、矛先が黒子くんに変わった。…結局揉めてるし。

「黒子か…そーいやいたな〜〜」

先輩のその言葉に思わず口角が上がる。
隣で笛を片手にゲームを見ていたカントクが息を呑むのがわかった。今のこの言葉だけで違和感を感じ取れたなら、もしかしてこの監督は凄い人なのかもしれない。

「すいません、適当にパスもらえませんか」
「…いけ、黒子くん」

黒子くんのバスケは、まだ始まっていない。


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