茂みの葉っぱを毟り取り続ける銀時に気付いた新八が頭を叩いた。 「何してんすか庭師が手入れしてる空間なんですよ此処!?僕らの年収より高い金が使われるんですよ!?」 「ハッ、俺はいったい何を……?」 「無意識かよ!」 「銀ちゃん、男の嫉妬は醜いアルヨ」 「そうだぞ万事屋、松下先生はお前よりしっかりしてて気も利くからな、上手くいくのは当然といえる。羨む暇があったら精進するべきだ」 「不満なら真正面から殴り込みにいかなきゃ男が廃るってもんでさァ」 「頭もゴリラかゴリラ、嫉妬してんのは先生じゃなくて女の方ネ」 「え?なんで?」 「なんでってそりゃあそこいらの女よか先生の事が好きだからでしょうよ、近藤さんはこういう機微には疎いんだからもォ」 「何言ってるのか銀さん全然分かんない、あのお嬢さんめっちゃ可愛いじゃねえか羨ましいぞ雪成この野郎場所代われ」 「急遽取り繕った感半端ないヨ銀ちゃん」 「……あれっ、なんで総悟が此処にいるんだ?」 「さっきからいやしたよ、具体的には『俺いなくてもトシがいれば真選組はうまくいくんだ、俺なんて要らない子なんだぐすん』って泣いてる時から」 「キャー見られてた!?」 乙女の如く顔を覆う近藤の隣に何時の間にか居座っていた沖田。顔には明らかに「面白そうな臭いを嗅ぎつけました」と書かれている。 「まさかあの会社に関係した女と先生が見合いするとはなァ……知ってます?ちょっとキナ臭い噂があるんですぜ、あそこ」 「マジでカ」 「えっ俺知らない」 「土方さんとかザキとか情報をよく扱う側しかまだ掴んでないもんですからね、無理もありやせん」 「キナ臭いってどんなのだ」 ぴくりと眉を動かし、銀時が沖田に質問する。 にやっと口角をあげた沖田は人差し指を立てた。 「裏で天人と手を組んで国中に純度99%の麻薬を蔓延させ、誰も彼も関係なく滅ぼそうとしているなんて馬鹿馬鹿しい噂でさァ」 「そんな……あくまでも噂ですよね、沖田さん」 「まあな。ま、そんな風に高を括ってる奴から足元は掬われるのが定石なわけだし、火のない所に煙も立たねェ」 「なんだとォォ!?もし松下先生がお嬢さんとくっついてしまったら危ない目に合う可能性が高くなってしまう!」 「けど会社の噂はただの噂で、あの女もただの逆玉候補なだけかもしれないアルな?銀ちゃん、どうするネ?」 銀時の目線の先にある雪成は今も楽しげに笑っており、見合い相手の女性と会話に花を咲かせている。 短く目を閉じ、小さな溜息と共に再び開眼した時には数分前までの不貞腐れきったオーラは払拭されていた。 「俺は 直後、料亭にテロリストによる爆破事件が起こり、見合いの件はうやむやとなった。 爆発に取り乱した女性を優しく対応し落ち着かせ警備人に引き渡した雪成を見る女性の目は完全にホの字だったらしいが、結局雪成の方から頭を下げて断ったようである。 沖田が言ったキナ臭い噂も本物ではあったのだが会社全体がというより上層部の腐った一部が画策していただけのものだったようで、証拠を見つけて連中の逮捕に漕ぎ着けて以降の会社は評判こそ落ちたものの経営はクリーンそのものだった。 何故あの日料亭で爆破事件が起こったのか、事件の解明は未だ果たされていない。 尚、爆破事件を引き起こした張本人は今、あの日料亭で見合いを行っていた人物の仕事場で呑気にしているのだが。 「ハッハッハ!どうだ雪成さん、俺のお蔭でスムーズに断れただろう!」 「いえ全く」 「そんなところで照れなくても良いのだぞ」 「寧ろ貴方の所為で厄介な方向に発展しましたよ、拳骨を落としたいのですが構いませんか?」 「頼む止めてくれ」 サッと頭を隠す桂の姿に、雪成は緩く微笑む。 「私はこれからも結婚するつもりはありませんしね。一人の方が楽ですし、子供のような存在はもう沢山いますから」 「そうか。……そもそも結婚するつもりがあっても銀時が引っ掻き回して婚期は遠いだろうな」 「あはは。あの子も何時か素敵な人と結婚して丸くなりますよ」 「そう……か…?」 「というよりそうなってもらわねば困ります。うんと幸せになって畳の上で往生しなければね」 結婚だけが幸せになる手段ではないし、必ずしも結婚して欲しいわけではないのだが。 それでも生涯を添い遂げる相手がいるというのはきっと幸せな事だから、結婚してくれれば良いと思う。 「よう雪成、聞いたぜ振られたんだってな!ぶはははは慰めに来てやったぞ祝いだ酒呑もうぜ!」 今のままだとまだ難しいだろうな、と苦笑した。 ←(2/2) 戻る |