清潔感のある面貌、柔らかい物腰、受動型だがいざという時は素早く動き、人柄が良く、収入は頼りなかったとしても手堅い生活を送っている男性。
――近頃そんな条件を持つ者を探していると言うとある会社の社長が、何処で噂を聞きつけたのか雪成の元へ便りを出した。こんにちは初めまして、貴方の御噂はかねがね、御用があって直接話がしたいのですが何時頃でしたら都合がつきますか、と。
いきなり何だ?というか誰?と疑問符を出しながらも予定がつく日を返信すると、なんと相手から松下私塾の方へ向かうと便りが来た。

「是非、孫娘と会って欲しい!」

社長がやってきた日、私塾に訪れていた教え子と共に遊んだり客間で話しこんだりと、雪成の事を半日で見定め帰宅する直前になってから唐突に言われた台詞である。
尚、この時点で雪成は目の前の人物が社長という地位についている事は教えられていない。ただの変人のおじいさんを相手にしていたつもりだった。

「構いませんが」

あっさりと了承した雪成も雪成である。こうして雪成は人生で初めてのお見合いを体験する事になるのであった。
そして雪成がお見合いをするという話を聞いた万事屋は邪魔をすべく見合い場としてセッティングされた料亭に忍び込むことになる。

「雪成だけ先駆けて脱独り身するとか絶対許さねェ」
「先生と結婚しても良い女かどうか穴という穴全てきっちり判断してやるアルヨ!」
「松下さんの人生なんだから好きにさせてあげろよ!!」

相手方の女性は美しい庭を眺めるのが趣味ということで襖が開かれており、茂みに隠れて覗くことが容易だった。
目当ての人物である雪成がやってくる間に、社長が予約した場所だけあって沢山の仲居と警護官が行ったりきたりしている。

「流石大社長が溺愛する孫娘の結婚相手を選ぶだけあって警備も厳重ですね」
「金の無駄遣いだろ」
「銀ちゃん、ここ見つからない?だいじょぶ?見つかったらブチのめすから良いか」
「自己完結してるし聞いた意味ねェな!この庭には庭師だけが立ち入って良い事になってるらしくて警備の人も入るのは禁止されてるんだ。暴れないでそもそも見つからないようにしてよ」

そんな台詞が出ちまったら音が鳴るのがお約束。

「おい、あそこの茂みから何か音がしたぞ!誰か確認してこい!」

(やべ!!)

「えー風か犬猫じゃないですか?」
「中庭に入ったら切腹って副長に言われてますしぃ〜」

(副長?)

「俺局長なのに?!それで安全確保を怠る方が問題だろう、もういい俺が行く!」

(え、局長?)
(なんか聞いた事ある声じゃね)
(こっち来るアル!)

ゴリラと目が合った。

「あれ!?お前等なんで――」

(((オラァァァァアアア!!)))

引きずり込まれた。

「どーしました局長」
「なんかいました?」
「なにもないゴリよぉ〜猫がいただけだったゴリ〜」
「この短時間でゴリラ化現象だいぶ進んじまったっすね」
「ちょっと怪我してるみたいだから手当てするゴリ〜、俺がいないのは誤魔化しておくゴリ〜」
「さっさとしてくださいよー」

本物のゴリラ、いや近藤は万事屋総出で袋叩きにされていた。小枝を踏んで音を発生させた新八が与えたダメージが一番強い。
窮地を乗り切ると三人は近藤を見下ろして取り囲む。

「いててて……万事屋!お前等なんで此処にいるんだ!」
「警備役として利用されたのか、真選組の出動も随分と安くなったもんだな」
「しょうがないだろ、松平のとっつぁんとあの会社の社長は懇意にしてんだから頼まれたら断れん!この縄外せ!」
「駄目だね、そしたらあっちに戻ってチクんだろ」
「ふん、そうかよ。しかし俺に起こった異変にアイツ等は気付き、侵入したお前等を捕まえるだろう。今にもな」
「どうせその辺でしてる野グソが長引いてるだけだと思われるだけだし問題ないネ」
「しないけど!?良い年した大人だぞ!」
「いやアンタ自分のお見合いの時クソ垂れたじゃないですか」
「イヤァァァごめん新八くんその事は後生だからお願い忘れて!!」
「安心しろ、お前が忘れたとしても俺は一生忘れねェからよ」
「忘れろ!!!その台詞もっと良いシチュエーションで使えるから別の機会で使え!!」






「娘さんの見合い相手って松下先生だったのか!」
「知らなかったのかよ、そんな事も教えられてねえとはな」
「いや〜昔のトシに似た髪と赤い目をした寺子屋の先生ってことは知ってたんだがなぁ」
「そこまで分かってて気付かなかったんかい」

お見合いも始まり、二人が遂に対面した。
普段は地味な色合いの似た着物ばかり着ている雪成だが、お見合いというだけあってスーツを着用していた。事前に相手の女性が洋物を着るという情報を押さえていた為、合わせたのである。
雪成がにこりと笑顔を向けると、女性はぽっと赤らめて俯いた。

「ヴッ」

ついでに一切関係ない誰かさんが胸を押さえて俯いた。

「何してるんだ?あいつ」
「稀によくある事です、気にしないでください」
「先生何時もの服よりあれ普段着にした方モテるヨ!」
「……スーツって女の子も格好良いと思うんだ?」
「言っとくけど元々の顔が良くないと意味ねェからナ、勘違いすんな眼鏡」

神楽から精神ダメージを受けた新八と局長が一人抜けて暫く経っても警備側にざわめきすら起こらない事に気付いて精神ダメージを受けた近藤が二人仲良く落ち込んでいる。

「おい男三人、何してるアルさっさと顔あげるヨロシ」
「失礼します。お待たせいたしました、今すぐ配膳致します」
「わ〜良いな先生!」

入ってきた仲居が色とりどりの料理をテーブルに置く様を見つめ、神楽の口からどばっと涎が出て瞳が輝く。
女性の方は引っ込み事案な性格のようで雪成にリードされる形で話をしていたが、美味しいご飯を口にしたからか当初の緊張感は解れてきていた。二人ともにこやかな雰囲気で楽しげに食事をしている。

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