時はちょっとばかり遡る。
神楽と新八が定春と共にスーパーに買い物に出かける前まで。

「お邪魔します」

かぶき町に戻ってきたばかりの雪成は晴れやかな笑みを携えながら絡繰技師の平賀源外の元を訪ねていた。
万事屋リーダーの座ブン取り事件が終決し、生まれた場所である始まりの家に戻り源外からメンテナンスを受けていた金時は目を丸くし、それから気まずげな顔になりつつも雪成に声をかける。

「……よう、雪成。戻ってきてたんだな」
「ちょっとした用がありまして、一目散に此処に来ました。ところで貴方どうしたんですか」
「何も言わずに俺の前に来てくれ」
(卑怯だな……)

メンテナンス中の為に絡繰丸出しで取り外され源外の手に収まっている己の左腕を見つめている雪成に、自卑感に苛まれながら目線を合わせた。普段口煩い爺はこんな時に限って口を開きやしない。いいや、この時だからか、と金時は雪成の洗脳を解こうと無言のまま機能を作動させる。

「さようなら、金時」

自身へ向けられた、慈愛が込められた微笑みから目を放す事が出来ないまま。
かぶき町は非常に活動的な夜の街である。雪成のように金時の洗脳を受けてから別の街へ移動した人がいれば、逆にその日だけかぶき町に遊びに来ていた人もいる。データは残っている為誰を洗脳したのかは分かっている。該当する人々を全て元に戻し終えるまでの間、この洗脳機能は装着され続ける。これでまた一歩、機能剥奪に近付いた訳であった。

「三十路のおじさんには厳しい……」

洗脳する瞬間に起こる発光を間近で受け、眉間に皺を寄せながら瞬きする雪成。唇を僅かに開けながらも何も口にすることが出来ない金時を尻目に、源外が技術者としての顔になりながら頭を掻いた。

「なんでィ、俺の作った絡繰は完璧だったはずだが」

(そうだ、俺の性能は完璧の筈だ。なのにどうして)

「オメーさんよぉ、最初から洗脳効いてなかったな?」

源外からの指摘に雪成は困った顔になる。まったく理解が追いつかない金時が困惑しながら尋ねた。

「……お前も、絡繰か?」
「いいえ、女性の股から生まれました。血も赤いですよ」
「じゃあ犬か?」
「わん」
「やっぱりか……」
「いやどう見ても違ェだろこのクソポンコツが」
「ダッ、じ、じゃあなんで」

思い切り頭を叩かれ、目を白黒にさせて穴が開きそうになるほど強く雪成を見つめる金時。銀時を模して造られた為銀時と同じ体格で、銀時よりも顔が整っており、迅速に事件を解決する能力もある金時だが、生まれてから経過した月日はたまよりも下である。雪成の目には金時が人生経験の足りない幼い子供に映った。

「アイツと会って思い出す奴はいた、思い出した奴に言われて思い出す奴はいた、だが絡繰でも動物でもなきゃ最初から効かない奴なんざいなかった、なのに、何でだよ……」
(なんで、笑ったんだ)

洗脳をしても断ち切る事が出来なかった不完全体主人公を。洗脳し万事屋を乗っ取ろうとした相手に笑いかける男を。昨日の出来事と合わせて理解できる範囲を超えた金時は、自失し残った左腕で頭を抱える。

「まあそもそも、原作出てませんしね」


「……は?」

「四十巻分の記憶改竄なんて言われましても……といいますか。改竄もなにも出演してないですからね、私」
「は?」
「は?じゃないですよ、原作を最終回に向かわせて新しい漫画の主人公になると言った君がまさか今の私の発言が分からないとでも?」
「いや分かるけど!確かに分かるがメタすぎだろ!?そもそも今まで書かれてきた話でそんなメタ発言一回も無かったじゃねーか!!」
「元ネタが元ネタな以上何処かしらでメタに触れなければならないんです。人気投票篇とかあれメタ込みじゃないと絶対書けませんよあれ」
「そうだけど!そうだけれども!!そういうの避けて行くタイプの夢小説なんだなーって読者は思ってたんじゃねーの!?」
「では只今から宣言しておきましょう。ギャグでメタ入ります。勿論シリアスでメタが入る時もあります。原作が銀魂なのでどうしようもない事なのです、この連載はそういうの避けて行かないタイプの夢小説です。頭の良い皆さんなら理解してくださいますよね!」
「もう滅茶苦茶だな!!」

原作を含めほぼツッコミをした事がない金時は味わった事のない疲労に襲われ、肩で息をする。

「地の文ンンンッ!地の文までやられやがった!!」
「それでこそ金魂主人公です。そのノリもなく銀魂を乗っ取れる筈がないんですよ、本気で完遂するつもりならば狙うは断然ギャグ路線です。遥かにやり易い。ギャグならキャラクターはゴリラすら殺せますから。分かりましたか金時くん」
「ゴリラじゃなくて原作者な!?」
「まあ冗談はこれくらいにしておいて」
「全然冗談に聞こえなかったんだが!!」


「私はあの子の名付け親ですから」

目を瞠った。

「あの子につけた名前を忘れるわけが無いのですよ」

金色サラサラストレートに手を伸ばし、一切抵抗を受けずに髪を梳いきる。シャンプーを薄めて使用する貧乏人の銀色天然パーマでは到底出来ない所業である。

色に輝く髪。それと、長いを生きられますように」

「だから銀時。君は知らないでしょう、この名の由来を。それもそうです、あの子にだって教えてないんですからね。私と、もう一人の男が共につけた名なんです」

「記憶改竄だけでは手出しできないものもあるということです、はい良い社会勉強になりましたね」

「君がよければまた寺子屋に遊びに来てください。万事屋代行さんではなく、君自身が。子供たちは相手がきちんと自分を見ているか分かるんです。誰が危険で誰が守ってくれるのかの嗅覚を持ってるんです」

「彼らが君に懐いたのは、君が彼らを見て遊んでくれたから。目一杯遊んでくれる良いお兄ちゃんだったからですよ。では、失礼します」

金時の髪から手を離し腰をあげる。先程の微笑みとは違う笑顔を作り、出て行こうと。

「待てよ」
「おや、なんでしょう。もう終わりな雰囲気ですが」
「なんだったんだ」
「何がです?」
「さようなら金時って、ありゃあ、誰に向かって笑ったんだよお前」

洗脳されていないなら、名付けた子の位置を奪った男を相手に笑う必要はないだろう、と。それは言葉にする事が出来なかった。雪成はぱちぱちと何度か転瞬し、間をあける。そしてもう一度笑顔を浮かべる。

「なんだか勘違いしているようですが私、洗脳効いてましたからね」
「「……ハァ!?」」

「私は効いてないですなんて言ってないですよ?ばっちり効いてました。ただ銀時という名前は覚えていて、君の名前と一致しないので違和感を持っていただけです」

奥州での用事を終えかぶき町に戻ってくるとやたらあちらこちらから聞こえる銀時と金時の話で漸く合点がいったのだと、にこにこと笑いながら言う。

「それで銀時との記憶は戻りましたが金時との記憶が消えたわけではなく、銀時バージョンと金時バージョンの二通り頭にあるような状態だったんです。ですから、あれはまあ……金時の名付け親としての私が金時に向けたものですね。長い時を生きられますようにと願った金髪の子、金時へ」

「それでは今度こそ失礼します。……あ、忘れる所でした。これどうぞ、奥州の土産です」




「じーさん」
「なんだよ」
「双眼及び胸部機関周辺に異常があるからそこも診てくれ」
「ポンコツめ。それは異常じゃねェよ」

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