「少し前に奥州に出かけてったよ」
「昔の恩人があっちにいるんだって」
「何時帰るか?んーとね、そんな長くはならないって言ってたし軽く挨拶とお土産渡して回るだけらしいから……何時かな?」
「ばか、一週間以内つってただろ。伸びるなら一報いれるってさ」

「情報提供どーも、クソガキ共」

「クソガキ言うな!教えてやったのに!」
「も〜似た名前なのに金ちゃんさんと全然違うね〜」

何時の間にか、公園のベンチに座りながら深い溜息を吐いていた。
今まで会った連中を虱潰しに探し回って顔合わせしていったが誰も俺を覚えてない、どいつもこいつも薄情に俺の事を忘れやがってポッと出の金さん金さん五月蠅くて仕方がねェ。四十巻分の活躍があの男に奪われてマジムカつく。知り合い連中をほぼ見回って歩みを止めた場所は寺子屋の直ぐ傍だった。無意識に来てしまったんだろうか。

「は〜〜〜」

俺が大変な時に彼奴は何やってんだかねー、肝心な時に使えねえんだから。今までの功績全部奪われてんのよ?ヅラもやられてたってことは万事屋銀ちゃんどころか俺の人生丸ごとルパァ〜ン三世されちゃってんのよ?

「……やってらんねェ、酒呑むか。ケッ!」


 * * *


「お邪魔します。あ、戻ってたんですね良かったー」
「は?」
「じゃあ殴りますので歯食いしばらなくていいです」
「ごげぶ」

頭上から見覚えのある声が聞こえ、咄嗟にジャンプから顔を上げると俺ん家の壁に全身がぬめり込んだ。

「痛ってェェェ!!何しやがる!?」

ボコッと勢いづけて壁から脱出し床に足をつけると雪成が堂々と万事屋の領域に入っている姿が見える。顔面どころか全身がヒリヒリした。

「慈悲は与えてますよ、感謝しなさい」
「何処が!?もしかして床に穴じゃなくて壁に穴開けたことか!?」
「イエースザッツライト」
「もう一度言うけど何処がだよ!そもそも穴開けんな修理費かかんだろーが!」
「床を破ったらお登勢さんとキャサリンさんとたまさん総出で下半身に集団暴行が加えられたに決まってるじゃないですか、壁を選んだ私の判断に泣いて喜びなさい」
「穴開けんなって部分聞こえなかったのかなァァァ!早くも難聴かなァァァ!」

何時も通りの会話をしてから雪成が俺を認識している事に気付く。いや、別に分かってるよ?今の会話で俺が俺だって事忘れてないのは知ってるよ?分かってますよ三歩すら歩いてないのに忘れる訳ないし?

「……俺の名前は?」
「坂田銀時でしょう」
「『万事屋○ちゃん』○に入る単語はなーんだ?」
「銀。看板直ぐそこにあるじゃないですか、馬鹿にしてますか貴方」
「ハハハやあ雪成くん久しぶりだねー!」

ばんばんと背中を叩き笑う。途中ジーさんとこに寄って直接治されたか他の連中の話でも聞いて思い出したかしたんだろうな、コイツは。

「はい、奥州お土産饅頭です」
「サンキュ」
「お二人と定春は今何処に?」
「買い出しと散歩。おら、ついでにオメーの分も淹れてやるよ」

がさがさと袋を破り、客用のコップに麦茶を注いでテーブルに置く。俺の分は苺牛乳。なんと、冷蔵庫に半額シールが貼ってあるパックが三本も入ってた。まあ全部賞味期限過ぎてたけど。「金さんは飲まないのに、お買い得だと思って気が付いたら買ってました」だってよ。ポンコツプラモデルめ。

「ありがとう、頂きます」
「おっこれうめえな、もう一箱寄越せ」
「嫌です」

んだよケチ。ぐちぐちしながら甘い饅頭を食べ、苺牛乳で喉を潤す。なんだこのコンボ最高じゃね?最高で最強だよ。

「銀時」
「ふぁん?」
「口を開けなさい」
「?」

言われた通りにすると何か丸いものが投げ込まれる。エッ、なにこれ。何入れられたんだ。ちょっとビビりながら舌を動かすと、チープな味がした。

「なんだこれ」
「飴ですよ、駄菓子屋の」
「折角甘味と甘味のコラボで余韻に浸ってたのに邪魔すんな、こんな安っぽいの!今の銀さんの口内は大人タイムだったんだぞ」
「嫌いですか?金太郎飴」

口の中で噛み砕く音が鳴る。

「別に」
「そうですか」
「でも今はタイミング悪ィから嫌いだな、苺牛乳様と饅頭様の結婚式に邪魔者乱入って感じ」



彼奴は大抵、寺子屋にいる。平日なら猶更だ。虱潰しに歩くより定位置が分かってる奴から確認する方が効率は良かった。
行かなかった。
違う、行けなかった。
彼奴が居ないって分かった時、安心したんだ。

坂田銀時なんか知らないなんて言われたくなかったんだ。

「本人にゃ死んでも言わねーけどな」

(2/3)


戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -