「まつした、ゆきなり……」
「枝豆ですね。はいどうぞ」
「ん……おいしい……」
「もっと欲しいですか?」
「……うん」
「では剥きますね」
「ん。あー……ん」
「はい、あーん」
「……ふふっ、おいしぃ」
「私も胸がいっぱいです」
「なにもたべてないじゃない」
「食べてますよ、今夜は空気がとても美味しいですね」
「くうき?……すぅー、はぁー」
「かわっ……!んんっ」
「?……いたいの?だいじょうぶ?」
「痛い……突如開催されたデレ祭りで胸が痛い……」
「いたいのいたいの、とんでけー」
「ゴフッ」
「ち……?やだ、なんで……?まつしたゆきなり……ふ、ふぇぇ……し、しんじゃう、の?」
「死にません。これはただのトマトジュースです」
「よかったぁ……」
「それより次は切り身をどうぞ、これもまた美味しそうですよ。あーん」
「あー、ん」
「美味しい?」
「ん。おいしー」
「ちょっと待ってくださいね。山葵がついているので取り除きます」
「わさび……や……」
「ええ、嫌いでしたよね。……これでよしと。はい、どうぞ」
「あーむ」
「次は何にしますか?」
「……わたしのばん」
「おや、信女が食べさせてくれると」
「うん」
「……では折角なので」

「なに勝手に二人だけの世界築いてんだ雪成ィィィィ!!!」

「痛ったぁ!?」

酒の効果で普段より可愛らしく素直な信女を膝に乗せ、存分に甘やかす事に集中しすぎて不意に襲いかかった頭の衝撃に耐えきれずグシャッと床に倒れ込む。なんとか信女は死守しましたが、もし怪我をしてしまったらどう責任をとるつもりだったのでしょう。なんたる卑劣。

「何をするんですか、GINさん」
「てんめェェェェ俺らが必死こいてあの酔っ払い共と格闘してる間何してやがった!!」
「兄妹水入らずでご飯を食べてました」
「あれの何処が兄妹だよただのバカップルの会話だったぞ!!オラとっとと立て、マダムが来てんだよ!」
「え、そうだったのですか」

頭から垂れる血を拭っているとGINさんが手を引いて無理やり立たせてくる。

「ちょっと、まつしたゆきなりはわたしといるの……じゃましないで」
「未成年で警察所属の癖に酒飲んだ奴の言う事なんか聞くか!つか邪魔してんのはオメーだ!」
「あー……信女、すみませんが少しの間辛抱してください。此処に来たのは手伝う為なんですから」
「うっ、ぐす……ひどい……そうやって、ひとりじめするきでしょぉ……にいさんをうばうつもりでしょ……」
「GINさん、私はこの子とサシで飲んでますのでマダムはそちらだけで対応してください」
「何のためにお前を呼んだと思ってんだァァァァ!!シスコンに進化、いや退化しやがって!!」

ちょ、止めてください!この信女と一緒にいさせてください、こんな機会滅多にないでしょう!ちょ、おい止め……後生だ止めろぉぉぉぉぉ!!!

「おい松下、さっさと席つけ。万事屋は当てになんねェ」
「信女と一緒に居ます」
「そんなん放って……オイ、なんでそんな大人しいんだコイツ。さっきまであのジャッキー共と一緒に暴れてた癖に」
「雪成がいるから大人しいんだろ!それよりTOSHIお前も手伝えさっきから雪成の奴反抗しやがって行こうとしねェんだ!」
「だからTOSHI言うな!チィッ、大人しくしてマダムの接待してろ!」
「嫌です。この信女とご飯食べます」
「コブ付きで口説けると思ってんのか!?妹付きでご機嫌取り出来ると思ってんのか!?どう考えても邪魔だわ置いてけ!」

GINさんの頭を鷲掴み傍のテーブルに叩きつける。バキッとテーブルが無残な事になるが仕方のない犠牲です。無事GINさんは気絶し、邪魔者は一人消えた。

「しょうがないじゃないですか、成人するまでの間ずっと今の信女はお目にかかれないんですよ!折角のチャンスを溝に捨てろと!」
「あと数年待て、それより今はマダムだ!」
「まず信女が酒を飲まないように貴方方が見張っていれば私もこうして駄々をこねなかったのですが、ね!」
「ざけんな何で真選組おれが見廻組の奴が法律違反しねェか、っと、見張らなきゃいけねェ!喜んで見逃すわ、嬉々として通報するわ!」

TOSHIさんの鳩尾目掛けて拳を打ちこもうとするが避けられる。流石対テロ用特殊部隊真選組副長……それなりに本気で殴ったんですが。

「ほざきましたねTOSHIさん、信女の不祥事は露見させませんよ!」

御宅のSOUGOくんが今回は酒を飲んでいないからって調子に乗って……

「TOSHI言うな!……ハッ、俺ァあの女のやらかした事を見過ごす理由がねェんでね。お高くとまったエリート様であらせられる見廻組やつらの評判に傷を加えられるのなら寧ろ率先してやってやらァ」
「こんのぉ……」

此処で見廻組と真選組の険悪さが出てしまうとは。TOSHIさん等真選組は好きですが、今回は信女の世間のイメージがかかっています。SOUGOくんと局長さん二人なら口止めでなんとかなりますし、身を引き締めてTOSHIさんの口を動けないようにせねば。

戦闘に備えて身構えていたが、TOSHIさんは煙草を取り出してふかし始め殺気だったこちらに応じる気配がない。そして、煙草の煙を吐きだして私に視線を投げた。

「今回だけだ」

脈絡のない言葉に怪訝な目で見つめる。

「……はい?」
「お前等には借りがある」
「借りなんてありましたか」

モンハン、志村くんの文通、ファンクラブ、人気投票、迷い猫捜索、イボ騒動、遭難、私たちへの借りというキーワードで思い返してみたが見覚えは一切ない。私と信女が共に彼らと一緒にいた時ではなく、それぞれ別に借りを作っていた……とか?いや、どちらにしても私は彼らに借りを作った記憶はない。

「フン、覚えてねェのなら別にいい。俺の中での問題ってだけだ」

しかしそれはともかく、仁義は通す性格のTOSHIさんがこう仰ると言う事は、だ。

「見なかった事にしてやる。これでチャラ、今後はそうはいかねェ」
「……分かりました。ありがとうございます」
「精々手綱を握っとくことだ」
「はい、今後は貴方にバレないように努力致します」
「いや、起こさねェようにしろよ。見当違いの努力してどうする」

信女の手綱を本気で握ったら信女の魅力が半減してしまいますからね。それなりに方向性は制限して、他は自由で良いんですって自由で。

「オラァァァ!!」
「はぐっ!くっ、万事屋さん、意識が戻りましたか……!」
「あんだけ長々と話してたらなァ!ったく!」
「よおし褒めてやる万事屋、連れてくぞ」
「テメーに褒められても嬉しいどころか腹立たしいから止めろTOSHI!」
「だからTOSHI言うな!」

復活したGINさんとTOSHIさんによって羽交い絞めにされ、抵抗虚しくマダムの隣にまで移動させられた。だが私の腕には同じように移動してきた信女がもう一度ひっついてきて、先程と構図が変わらない。ちょっと照れる。

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