「先生、お通ちゃんの公式ファンクラブが今度の生放送番組で決定されるんだって〜。知ってた?」
「興味は無いんですが、志村くんが大ハッスルしてるんだろうなーと思いながら見てましたね」
「俺もー。あの眼鏡寺門通大好きだもんね」
「こらこら、眼鏡じゃなくて志村新八くんでしょう?」
「え、あんだって?一世代前のクソダサ丸眼鏡かけ機?」
「それ本人の前で言ったらキレながらツッコミいれてくるでしょうから気を付けてください」

雪成と教え子が放課後にそんな事を話してた日から暫くして。

上半身裸の上に法被と包帯、頭に鉢巻、袴を履いたお通親衛隊の服装でタカチンを病院まで運ぶ銀時は、ある人影を見つけると今までかいていた冷や汗を拭い声をあげて呼びとめる。

「おい雪成!ちょーどいい時に来たな、助っ人頼んまァ!」
「今すぐそのフルチンの重傷者を病院に連れて行きなさい」
「バッカ、今連れてってるとこだろ!」
「泌尿器形成外科で治せるわけないでしょう」

前に聞いたお通ファンクラブ決定戦の生放送日、銀時の格好と普段のトラブルメーカー具合から関連性を見出し、また厄介な事に巻き込まれているなと思いながら雪成は携帯を取り出す。

(いや、自分から首を突っ込みましたかね)

「いやいやそんな細ェこと言ってる場合じゃねーんだって!」
「あ、もしもし。はい私です、万事屋さんの知り合いが重傷を負っているので救急車お願いします。現在地言いますね、えーっと」
「待って!いや救急車は待たなくて良い!助けてくれ、人手が必要なんだ!このままだと失格になっちまう!」
「はあ」

近くの病院に連絡を終えた雪成の肩を鷲掴み、メシメシと嫌な音を鳴らす銀時。

「賞金も分けてやっから!はいコレ着て!」
「山賊ですかアンタ。貴方も災難ですね、気絶中にこんな目に合うとは」

銀時はフルチンのタカチンが着用している少ない親衛隊一式を全て剥ぎ取り雪成に差し出し、雪成は白い目でそれを受け取ると自身が着ていた羽織を脱いでタカチンに羽織わせる。フルチンだけあって袴は無いが、雪成は元々袴を履いているので問題は無かった。親衛隊の袴と色合いが異なるが、違和感はまだ少ない。

「いいか、雪成お前はタカチンの代行人だ。タカチンが病院に行ったとバレねェようにタカチンとして振舞え。……タカチンって顔じゃねーか、おい、これで顔誤魔化せ。ったく、二枚目の面しやがってよォムカつくぜ」
「通行人からグラサンを奪うんじゃありません。すいませーん、お金払いますんで」
「あだっ」

オーバルタイプのサングラスをかけていた通行人から強奪する銀時の頭を叩いて、雪成はサングラスを装着する。

「……いややっぱタカチンって面じゃねーな。クソッ寧ろ相乗効果で格好よくなってやがる!腹立たしい!」
「万事屋さんも普通よりは整ってますよ、それなりです」
「褒めるんならもっと褒めてよ!なにその中途半端!!あ、そうだ雪成その前髪はダメだ、連中に馴染みがありすぎる!」
「前髪?」
「よし、これでいいな」
「通行人からワックスを奪うんじゃありません。すいませーん、お金払いますんで。これに懲りたら歩きワックスは止めた方が賢明ですよ」
「あだっ」

歩きながら手鏡を使いワックスをぬっていた通行人から強奪する銀時の頭を叩いて、雪成はオールバックになる。

「……格好良いな」
「急に素直になりましたね、やめてください照れちゃいます」
「五月蠅ェ照れてなんかねー癖に!!やっぱイケメンムカつく!」
「ところで急ぎじゃないんですか」
「あ!忘れてた!」

タイミング良く救急車も到着した所で羽織以外素っ裸のフルチンなタカチンを任せ、先に走り出す銀時の後を追って共に走る雪成も急遽生放送番組に参加することが決定された。

「は〜怠いな〜〜、もうサボっちゃおっかな……どうせ勝ち確定だし」
新八アイツの足もなかなか速ェからな、甘く見てたら足元掬われるんじゃねーの」
「早っ!!」

クソダサな通選組の格好してレースに参加している山崎に追いついた銀時がわちゃわちゃと話している尻目に、雪成は携帯を操作しグー○ル検索でお通ちゃんの情報をかき集めていた。前を見ずに走っている状態でしかも携帯を使用するなど先生失格だがそれはそれなようだ。

「おーい、もっと早く走れよ。こっち来い」
「はい?」
「いや〜良かったな〜大事にならなくてよォ。そもそもお前はひ弱過ぎんだよ、もっと身体とか鍛えないとダメだぜ。なァゆ、タカチン」

親しげにタカチン(雪成)の肩に腕を回しながら、銀時は山崎を親指で指す。話を合わせろと目が語っていた。

「誰ェェェェェェェェェェェェェ!!コレ誰だァァァァ!!全くの別人じゃないスか!!誰なんですかこのグラサンとオールバックがクッソ似合ってる人!!」
(まあそうなりますよね)
「は?何言ってんだタカチンだろ。どこからどう見てもタカチン以外の何者でもねーだろ」
「どこからどう見ても別人以外の何者でもないよ360度あらゆる角度から見ても一ヵ所たりともカブってないよ、不細工金髪ヤンキーがあんな短時間で黒髪雰囲気イケメンになるわけないでしょ」
「オイオイいちゃもんつけるのはよせ。カブるも何も本人だからね、丸カブりだからね。思い出してみろ、タカチンと言えば太陽に反射して輝くあの白い歯……」
「ただの出っ歯だったろーが!顔も雰囲気も歯も全部この人の丸勝ちだよ、ちょっとでもカブらせたかったらオールバックじゃなくてリーゼントにしてこいよ!!なんでオールバックなんだよ!!なんで争ってる最中で携帯弄ってんだよ!!」
(山崎さんツッコミ頑張ってるなあ)
「まァ治療が治療なだけにな、男はあそこの帽子が脱げたら大人の仲間入りだからな。そのへんの気構えが彼をちょっと大人びた風に見せつつ片手間に携帯も弄れる男へ進化させたんだろう」
「だから何の治療をしてきたんだァァ!!どうやったらダサい親衛隊ハッピを現実の新撰組みたいに格好よく着こなせる大人になれるんだよ!!」
「おいジミー、俺がこのクソハッピを着こなせてねえとでも」
「反応そっちィィィ!?違うだろ、返すとこ違うだろ!てかクソって自分で言ってんじゃん!」

ボケとツッコミの応酬が止まらない間にタカチン(雪成)は裏サイトでちょっとアレな情報も集めていたが、画面に映る現在時刻を見て声をかける。

「おい銀時、油売ってる場合か?こんなザコジミー放って彼奴等と合流しようぜ」
「!おお、そうだな。こんな事してる場合じゃないな。早くいかなきゃな」
「今完全に美声が聞こえたんだけど。あの面のタカチンがこんなテノールボイスなわけないよねていうかサラッと俺の事小馬鹿にしたね今!!あれ、そういえば今の声何処かで聞いたような」
「お前が俺のタカチンの何を知ってるっつーんだよ、いい加減にしろ!」
「俺のタカチンってなんだよ、やっぱ仲がいい知り合いに代理頼んでんでしょ!いい加減にすんのはアンタだよ!これは明らかな不正ですよ!!悪いけど大会側に報告させてもらいますから、みんなマジメにやってんのに見過ごせませんよ」

そう言いながら山崎は近くの関係者を探そうと足を動かす。

「うおォォ!?」

銀時から一瞥を送られ、その意をくみ取って素早く山崎の腕を掴み地面に這い蹲らせて拘束するタカチン(雪成)。

「このタカチン強っ!!このタカチンやばっ!!」
「みんなマジメ?オイふざけた事言ってんじゃねーぞおうコルァ。お前タカチンがなんであんな重傷負ったか教えてやろうかあん?」

真選組の一番隊隊長がタクシーを使用して大江戸テレビに向かっている事を銀時は苛立ち混じりに説明し始めた。一番隊隊長という単語が出てきた時点で山崎の顔色は急降下している。マラソンという体だというのにタクシーを使うのは明言されてはいないが十中八九失格。そのタクシーが敵選手を轢けば明らかな妨害行為ということで十中八九失格。それが分からない山崎ではなかった。

「へ、へへへ……旦那、どうかこの事は御内密に……」
「誠意見せろ」
「えっ」
「誠意見せろっつってんだよ聞こえなかったかァ?耳が悪いんなら情報聞いて集める監察官なんざ止めた方が良いぜきっとォ」
「銀時」
「おうタカチン全ては俺に任せろ」

咎める視線を送るタカチン(雪成)を無視し銀時は山崎を足蹴にする。きつめのキックを一発入れてからタカチン(雪成)に見つめ返し、指差す。

「良いな、今のお前は松下雪成じゃなくてただのタカチンだ。タカチンは細かいことなんざ気にしねェ、もっとタカチンに成りきれ。俺がコイツに何しても口出しすんな。この大会中に起こること全部を容認しろ」
「私タカチンさんのこと何も知らないんですけど」
「おいおいタカチン、何時ものお前らしくねェぞ。もっとバカっぽかったろお前、もっとバカやらかしてただろお前」
「松下先生!?エッ嘘マジで!?この人が!?このオールバックグラサンが!?ウッソォ?!」
「ジミー君今何か言いましたー?数少ないお前に優しくしてくれてる存在雪成をこの程度の変装で気付かなかったおバカさん何か言いましたー?」
「ウグゥッ……!」

先程よりも強く何回も蹴る銀時に抵抗せず悔しげに唇を噛む山崎。それらを口出しせず見つめていたタカチン(雪成)は溜息を吐いた。

「やれやれ」

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