「……オフ会っつーか……ほとんど知ってる奴なんだけど。見慣れたバカヅラしかねーんだけど――この女以外はなァ!オイ雪成、誰だコイツ!」 「見廻組副長、今井信女でさァ旦那」 妹です、と言う前に沖田くんに言われてしまった。真選組と見廻組の仲が悪いのは知っていたからあんまり連れてきたくは無かったんですが、散々拳で語り合った末に"ちょっとだけ"を条件に了承することになりました。 「まさか松下先生が見廻組の副長と知り合いだったなんて思いませんでしたよ、何時頃知り合ったんですか?」 「うーん、なんといいますか、展開に流されるまま流されてたら、ですかね?」 「なるほど!」 「成程ってこんなので納得すんじゃねーよ近藤さん」 「まさか、幕府に雇われたっていうあの時の女はコイツだなんて言わねェですよね、松下先生ィ?」 ニッコリと笑い、向かい側に座る沖田くんを見つめる。 「まさか、違いますよ。オフ会に行くと言ったらこの子がどうしても一緒に行きたいとせがんできたので断腸の思いで連れてきたんです」 「それはそれで別の疑問が出てきやす。コイツとアンタ、どういった関係で?」 この場で一番冷たい雰囲気を発す沖田くん(※全身をドライバー魔改造済)の様子を万事屋さん達は黙って眺めている。志村くんは気まずそうだ。可哀想に、なんとかしないと。こんな状態で焼き肉なんて美味しくないでしょう。 「どうやら、兄妹のようなんです」 シーン、と場の空気が静まり返った。信女が今食べているドーナツが尽きそうなので机の下から箱を取り出し、新たなドーナツを信女に渡す。 「……マジですかィ?」 「マジです。佐々木さんが科学の力を使ってDNA鑑定した結果判明したことなので間違いはないかと」 「松下雪成」 「あら、焦げかけちゃってますね。ありがとうございます」 信女が指差した先にある肉を小皿にとる。少々黒ずんでますがギリギリ大丈夫でしょう。 「カラーリングしか一緒じゃねえじゃねーか、医者丸め込んで騙してんじゃねェの」 沖田くんがある程度納得してこれで大丈夫になったかと思えば、先程の沖田くん以上に気に食わなさそうなオーラを醸し出している万事屋さんがばくばくと肉を食べている。 「先生と名字違うアルヨ?年も違いすぎるし」 「少し面倒な経緯があるんですよ。神楽ちゃんが聞いてたら眠くなっちゃうくらいにはちょっと混みあってます。混雑してる癖に聞き終わった後の感想は『聞かない方が良かったわ』になるという二重苦ですが、説明しましょうか?」 「文字数が増えるだけアルな、じゃあ話さなくていいネ!私焼肉が楽しみでオフ会来たから眠ってちゃ勿体ない!」 「ええ、実に簡潔な結論ですね。流石神楽ちゃん」 店員を呼んで追加の肉を頼み、「どうぞお楽しみください」と言って笑えば神楽ちゃんは嬉しい悲鳴をあげた。目線だけで会話をしている真選組はもう口を出してこなさそうな感じなのでそっちは大丈夫でしょう。とりあえずは。後にどうなるかは分かりませんが。 「おい、雪成」 「こら信女!勝手に盗るんじゃありません、太りますよ!」 「……」 「私は貴女の身体を想って言ってるのですよ。佐々木さんから一日の摂取ドーナツ量は聞いてます、これではデブ一直線ですからね!」 無視したまま奪ったドーナツをもぐもぐし続けられるが、女性の禁句をいえばこっちのもの。抜刀され二つの刀で両側から襲いかかられるがこちらは二刀流ならぬ二箸流で対抗。二膳、合計四本の箸で動かないように捕らえた。 「おや、気にしてました?」 「性悪。異三郎はそんなこと言わない」 「あはははは、その佐々木さんから言われた事ですが」 「……」 「ちょちょちょちょ松下さん信女?さん!?危ないで――」 「あっ、遅れてすいません。どうもフルーツポンチ侍Gで〜す」 攘夷志士を発見し標的を変えた信女を背後からホールドしている間に真選組の皆さんが手錠をかけた。何故素直に来ちゃいますかね、桂。 「シャバ最後のメシだ、何が食いたい」 「じゃあ上ミノで」 「すいやせ〜ん、コイツにシビレ生肉追加」 桂のお蔭で話題逸れましたからそれで良しとしましょう。 「今日のドーナツはこれで最後ですよ」 「……」 「どんだけ厳重!?」 ドーナツが入った箱をガッチガチの鎖で固めた何個も鍵がついている金庫に仕舞いこむ様子をツッコむ志村くん。彼は万事屋さんの言う通りツッコミをしなければ生きていけないのかもしれないと思った。聞いていて楽しいので個人的には大丈夫なんですが、本人的にどうなんでしょう。 「……」 こっち見ないでください万事屋さん。貴方は何時も通りヅラをヅラと言っててください。さっきから隙あらば話しかけようとして……理由説明するの面倒なんですフィーリングで納得しておいてくださいな。 何やら桂がシリアスな雰囲気に引っ張り上げて現地解散になった。 「ドライバーとして生きていく覚悟ってなに」 「分かりません」 いやほんと、分かりませんって。脇腹突かないでください。ちょっと、刀取り出さないで。そのまま脇腹突こうとしないで。 「あなたの知り合い、変な人ばっかり」 「その分一本筋が通ってますから」 ドライバー姿の皆が面白かったので何十枚分も写真撮りましたし、現像しにいかねば。 「何処に行くの松下雪成」 「コンビニです」 「ドーナツ」 「違います、現像しに行くんですよ」 カメラを信女の前に出せば何処となくつまらなさそうな表情になる。もう少し表情豊かならもっとモテるでしょうに、折角の整った顔が勿体ない。モテても嬉しくもなんともないのでしょうが…… 「……あれがあなたの弟分」 「ええ」 「あの人の弟子」 「ええ」 「あの人から貰った教本、汁を零して捨てたって」 「本人はそう言ってましたね」 本当かどうかは定かじゃありませんが。あの捻くれ屋のことだからちゃんと残してたりする可能性も、マジで捨てた可能性も僅かにはある。 信女の肩を叩いた。 「触らないで」 「ごめんなさい。でも、殺気が滲み出ているものですから」 「出してない」 「出てますよ」 「出してない」 「出てますよ」 「出してない」 「はい、出てないですね」 何回か話しこんでいる内に殺気が消えたのを確認し頷く。 「コンビニの後は家に戻るだけですが、信女はどうします?」 「今日一日は松下雪成と一緒にいる」 「そうですか、では夕飯は腕によりをかけて作らせていただきます」 貴方の思惑通りにいくかは分かりませんが、まあ、私が出来る限りの事は致しますよ。 面倒な性格のガキの相手は慣れてますから。 「信女」 「なに」 「もう少し、付き合ってもらいますからね」 しかしそれはそれとして利用されるだけなのは癪なんで、こっちも利用させてもらいます。 * * * 信女から渡された見廻組が手にしている情報を元にゲーマー星人の動向を導き出し、発見した居所に時機をみて乗り込んだ。西側の方から大きな物音が聞こえる。あちらにあるのは第四動力室、感じ取れる気配は二人。 「何でこんな事に手を出すの」 「教え子たちが被害にあっただけで理由として十分です」 「指差して笑ってた」 「おや気付かなかった、やはりまた来てくださってたのですね」 「……」 上司の命令以上の動きを見せる彼女に思わず笑みを浮かべる。 「信女、貴女はもっと雑味を知った方が良い」 使用するには指紋認証が必要なゲーマー星人専用の緊急脱出ポッドを破壊し、外へ飛び降りた。万事屋さんたちにこれ以上の手助けは必要ないでしょう。 ←(3/3) 戻る |