気まぐれ部屋 | ナノ




「『久しぶり、ミネルバ』」
「『もう、遅いわよアデル!』」

今日も綺麗だねと言いながらカフェに入り、テラス席に座る。
帽子とサングラスで変装していても尚伝わってくる美人オーラは凄い。

「『絶好のテニス日和なんだから一分一秒でも時間を無駄にしたくないの!ほら、さっさと昼ご飯済ませて!』」
「『UV対策に時間かかっちゃってね、君みたいな美女を待たせて申し訳ないと思ってるよ』」
「『貴方は動物にしか興味無いじゃない、世辞が見え見えだわ!』」
「"許してあげてちょうだい、ミネルバ"」
「『わぁっ久しぶりねミーシャ!リボンがぐっと決まってるわよ』」

ミーシャがミネルバの気を逸らしてくれている間にさくっと頼むメニューを決めて店員を呼ぶ。美人が怒ると怖いなあ。

「『私は貴女に会うためにペット同伴可能のカフェを探したのよ、麗しいミーシャ』」
「"あらあら……相変わらず私の気分をあげるのが得意ね"」

嬉しそうだな。にゃあにゃあ可愛い。

「『良いわよね、ペット……私も飼いたいわ』」
「『お、そりゃ良いアイディアだ!君と猫の組み合わせはきっと全英が湧くよ』」
「『んー、でも……良い子が見つからなくて』」

唇を尖らせてミーシャの下顎を撫でるミネルバ。溜息を吐いて俺に視線を向けた。

「『ねえアデル、もしよかったらなんだけどミーシャを私に譲ってくれない?』」
「『おやまあ』」

ううむ、こういうのは俺の意志というより当猫の意志に聞くべきだよな。俺は離れたくないけど。ミーシャを見ると、ミーシャは撫で続けているミネルバの手から離れ俺の元へ移動した。
ミ、ミーシャ……!

「『やだ、振られちゃった』」
「『俺を選んでくれてありがとう、ミーシャ』」
「"当たり前じゃない。私は貴方が良いわ、アデル"」
「『見た目が好みなのよ、見た目が……じゃあアデル、ミーシャに似た柄の子、知らない?』」
「『ん〜、そうだなあ。見た目以外は何でも良いのか?』」

猫じゃらしをとりだしてミーシャと遊びながら頭の中にミネルバの言う条件に合う猫をピックアップする。

「『ミーシャみたいな雰囲気とミーシャみたいに大人しい子、ミーシャみたいに気品がある子がいい!』」
「『……ちょっと注文が多いな』」

ミーシャは産まれたばかりの時から俺の手で育ててきた愛猫。我が子同然というか俺の子供だ。ミーシャの両親の面倒だって見てきたし、寧ろ孫かもしれない。目に入れても痛くないレベルで溺愛してるし、そこらへんのペットショップでミーシャと同レベルの猫がいるとは到底思えない。
猫じゃらしを置き、店員が運んできたナポリタンを急ぎ気味で食べながらジト目でミネルバを見遣る。

「『だーってミーシャがストライクなんだもの、仕方がないじゃない』」
「『はいはい……まあ、一応探すけどあんま期待するなよ?見た目で我慢するんだな』」
「『はいはい、分かってまーす』」
「"ミネルバの元には行けないけど、ちょっとの間なら一緒にいるわよ"」
「『ああもうっ可愛すぎよミーシャ!』」

ミーシャがミネルバの膝元に乗り座り込む。
美女と美猫の図って最高だな、目の保養になる。俺が帽子とサングラスしてても不審者なだけだけどミネルバはミステリアスに見えるし。今も視線がびしびし来てるのがその証拠だ。

「『なあミネルバ、写真撮っていいか?』」
「『是非!私のアドレスに送ってね!』」
「『了解、芝の女王様』」

さっき会ったばかりの時とは比べ物にならない程の上機嫌ぶりに、俺はミーシャに対して大きな感謝の念を抱くと同時にナポリタンも食べ終え、食休みをしてから早速ミネルバと共に近くのテニスコートに向かうのだった。


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