気まぐれ部屋 | ナノ




「『行くぞグレイ、そらっ!』」
「"てぇーいっ!"」

遠くへ行くように調整したフリスビーを投げ、それを追いかけるグレイの後ろ姿を見守る。よし、よし……!もうちょっと!頑張れ、あと少し!

「『んー?これなあに?』」
「"あー!"」
「『あー』」

女の子の前をふわっと目の前を通り過ぎようとしたフリスビーを捕まえられてしまい、ショックを受けるグレイの慰めるべく近寄る。

「『やあ、そこのお嬢さん』」
「『きゃっ……!』」
「『初めまして。君が持ってるそのフリスビー、この子のなんだ。返してもらえるかな?』」
「"かえして!"」

ぐりぐりと頭を撫でくりまわし苦笑いを浮かべた。
出来るだけ怖がらせないように目線を合わせて柔らかく対応したつもりだけど……

「『なんだ、そうだったのね!邪魔してごめんねワンちゃん』」
「"いいよぉ〜"」

「……」

グレイと八歳前後に見える女の子の触れ合いを見て何か既視感を覚え、首を傾げる。遠い昔に似たようなことがあった気がする。気のせいだろうか。

「『へへ、かわいー』」
「"なですぎると、みだれるからあんまり……"」
「『良い子良い子!』」

じっと観察していたがさっき頭を掠めた感覚は訪れなかった。なんだったんだろう。
あ、女の子がこっち見た。

「『ねえ、私もこの子と遊んでいい?』」

「――……『いいよ』」

二度目の既視感に、意識するまでもなく頷いていた。
うーむ?犬の可愛さに惹かれて遊ぼうって誘ってくるなんてこと何回もあったし、それ……なのか?でも懐かしさ、今まで感じた事ないな。他に思い浮かばないや。

「『何ていう名前なの?』」
「『グレイっていうんだ。生後四ヶ月』」
「"ごしゅじん、コイツなでるのいやー"」

シッ、我慢我慢!愛嬌も大事なんだぞ。これも立派な社会に馴染む為の秘訣だ。


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