気まぐれ部屋 | ナノ




※少年探偵団にまだ哀が加入していません。


今日は以前俺の殺人犯容疑を取っ払ってくれたお子さんたちの御礼に動物園に連れて行く日だ。光彦に突っぱねられかけたが、どうしても!と拝み倒した。

「あっ!アデルさんー!」
「やあ、少年探偵団の諸君」

やってくる子供たちの姿にひらひらと手を振って迎い入れる。

「おはようございますアデルさん、今日はよろしくおねがいします!」
「よろしくおねがいしまーす!」
「蘭ちゃんと園子ちゃん、おはよう」

「おはよーグレイ!今日もかわいいー!」
「相変わらずちっちぇーなあ、お前」
「グレイ、おはようございます!」
「"おはよう!あゆみ、げんた!みつひこーだっこして!"」
「……なんか俺の存在無視されてねえか?」

少年探偵団四名に女子高生二名、予定していたメンバーが集まったのを確認して切符も人数分あるかを数える。よし、大丈夫。

「夏のぶり返しで日差しが強いみたいだから水分補給は忘れずにな。お嬢さん達も日焼けしたらまた別の魅力が増えるだろうけど肌には気を付けてね」

運転席に常備している日焼け止めクリームのストックを見ながら少年探偵団の元気のいい返事を聞く。よし、大丈夫大丈夫。

「俺がコンサルティングしてる所の動物園だから、きっと皆も楽しめるよ」
「お若いのにやり手なんですね、流石ですぅ!」
「ちょっと園子!あはは、ごめんなさいアデルさん……何時もこんな調子なので無視してください」

三十代って若いんだろうか?俺的には十分おっさんなんだけど東洋と西洋の考え方の違うかな。どっちにしても貫録って奴が足りないんだろうな、俺。

「じゃあ車に乗ってくれ。シートベルトは忘れないようにね」
「「「はーい!」」」
「うん」
「アデルさん、助手席に座っても良いですかぁ?」
「そーのーこぉ?」
「いたたっ!」
「運転中にまで話しかけたら邪魔になるでしょ、ほら後ろに乗って!」
「えええ!!?」
「光彦、グレイを見ててくれるかな」
「はいっ僕に任せてください!」

今時の十代は元気だなあと思いながらグレイを光彦に手渡す。人数的にレンタカーを借りるか迷ったけど乗るのは身体が小さい子供四人と女性二人だし、普段から使ってる車で十分だろうと思ったがどうやら予想通りだったようだ。安心安心。
おっと、忘れない内にあの事も聞いておかねば。

「蘭ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「毛利探偵はあのワイン、気に入ってたかい?」
「ああ!あれですね、そりゃあもう大興奮でしたよ!……何時もより酔っぱらってましたし」
「『おやまあ』……ご、ごめんね?」
「い、いえ!アデルさんが気にすることじゃありません!考えなしに飲むお父さんが悪いんです!」

そう言ってもらえると有り難い。そっかー、喜んでたかー。あの時は毛利探偵が眠りの小五郎とかいうものを披露して真犯人をビシッと見つけてくれたから、喜んでくれたのなら嬉しい。
あとは今日一日、少年探偵団と蘭ちゃん園子ちゃんの保護者役に徹して毛利探偵が休日を満喫できれば双方共に恩返し完了だ。

「それじゃあ出発だ」

動物園に着くまでの道中、園子ちゃんはやたらと俺に話しかけてきた。どうやら優良物件と思ってロックオンしているらしい。あと年齢を勘違いされているのも分かった。動物と仕事ばかりの俺とイケイケ女子高生の園子ちゃんじゃ明らかに合わないから止めた方が良いと思われる。

(さて……どうしようかなぁ)

園子ちゃんは園子ちゃんで独自に楽しむだろうし蘭ちゃんも可愛い動物は好きだろう。少年探偵団は子供らしく無邪気だからはしゃいでくれる。問題は彼らのリーダー的存在であるコナン君だ。彼はあんまり動物に興味無さそうだし、楽しめなさそうだ。

事件当時一番活躍していたのはコナン君である。重要な証拠に繋がる物を発見したり証言の矛盾を追及したりと高い能力をもっていた。それを指摘して凄いねと言ったら「た、たまたまだよ〜!」と言っていたのはわざとらしい上に何か事情がありそうだったが、恩人の一人であることに変わりはない。

ということで、今回の御礼で楽しんでもらいたい目当ての人物は実はコナン君だったりする。勿論、コナン君ばかりに構って少年探偵団を蔑ろにするつもりはないし蘭ちゃん園子ちゃんにももっと動物を好きになってもらいたいと思ってる。なので今日の動物園案内には気合いが入っているのだ。

「着いたー!」
「人がいっぱいだな!」
「それぐらいこの動物園が人気ということですね」
「オメーら、迷子になんなよ」
「ははは、ちゃんと俺が見てるから大丈夫だよ。コナン君はしっかり者だな」
「此奴等がはしゃぐだけはしゃぐからその分僕がちゃんとしなきゃいけないんだよ……」

グレイのリードを持った手でコナン君の頭を撫でる。

「コナン君だって子供なんだから、今日は気にせずに動物を見て楽しんでってくれよ」
「……う、うんっ」
「あ、欲しい物があったら遠慮なく言ってよ皆。そんなに高い物じゃなきゃ奢ってやるぞー」
「僕は大丈夫です、連れてきてもらっただけで十分ですから!」
「まあまあそう言わずに」

きゃっきゃと喜ぶ少年探偵団はまるで子犬のようだ。可愛いなあと和む。一人、相変わらず突っぱねている光彦にも和んだ。
俺はコンサルティングしたって事でフリーパスが渡されてるから幾らか出費を塞ぐ事も出来るしな、別に気にしなくてもいいのに。

「あのおサルさん子供サルさんを抱っこしてる!」
「きっと親子なんですよ」
「ずっとぶら下がって疲れねえのか?」
「ふふふ、人よりもずっと腕の力が強いからあれぐらいへっちゃらなんだよ」
「あんなに細いのに!?」
「本気で殴られたら人間の骨なんて簡単にバッキバキにされちゃうね!」

動物達がそれをしないのは優しいからであり、力で負けてる俺ら人間は彼らより知恵が上回ってるからであり。もし動物たち高度な文明を持つことが出来たらあっという間に世界は猿の惑星みたいになるんだろうなって思うよ。

「アデルさんなんで楽しそうなの……?」
「え、そう見えた?」
「うん」

コナン君に指摘されぐにぐにと頬を引っ張る。楽しそう、か?

「別にバキバキにされたいわけじゃないんだけどなあ」
「は、ははは……そりゃそうだろうけど……」
「動物たちはこんなに優れてるんだぞ、凄いんだぞってアピールする時は大抵笑顔らしいから、多分そのせいだね」
「ふーん……アデルさん、本当に動物が好きなんだ」
「ああ、愛してるよ」

俺を生き永らえさせてくれた父さんが動物だから、好きにならない方が可笑しい!養子にしてくれた父さんだって好きだけど、命を救ってくれた相手の方が比重は上だ。

「ってどうしたんだい、コナン君?」

そんなに目をまん丸くして。

「ううん、なんでもないよ!」
「そう?」
「アデルさーん!犬猿の仲って言葉って本当なんですかー!」
「あ、私も聞いた事ある。アデルさん、どうなんでしょう?」
「グレイは吠えたりしてないけど……?」
「"さるよりぼくみて!"」
「我関せずって感じねえ」
「おいおい、アデルさんはイギリス人だぞ?日本の諺の由来までは分からねえだろ」
「干支の順番の競争だったり猟に出た犬と猿の話だったり、諸説あるけど実際はそんなことはないよ!結局は個人差があるだけで相性が良ければ仲良くなれるし、悪かったら喧嘩もするさ」

知ってんのかよ……という顔になるコナン君にニッコリと笑顔を向ける。やっぱり君は猫を被るのが得意なようだ。嫌いじゃないよ、人間も動物も媚びる生き物だからね。

「動物に関する言葉は覚える意欲が湧くんだ。ほら、好きこそ物の上手なれ、って言うだろう?」
「すき焼き物の上等タレ?」
「元太君違いますよ、好きこそ物の上手なれ!」
「元太、おめーが食べ物の知識沢山持ってるのは何でだ?好きだからテレビでよく見たり、調べたりすんだろ」
「好きな物事になら積極的に取り組むから上達が早くなるものだ、って意味なの。分かった?」
「へえ〜」
「やあん、日本語に詳しい外国人素敵!」

この後はアニマルショーで芸を見せたり、特別に手伝いとしてアシカのボール投げをさせてあげたり、園内のレストランで食事をしたり、触れ合い広場でレッサーパンダを抱っこさせたりと、我ながら皆を楽しませることが出来たと思う。コナン君は動物に懐かれるよりも薀蓄を垂れ流した時の方が食いつき良かった。知識欲が強いんだろう。

お土産として歩美ちゃんにウサギのぬいぐるみ、元太君にシロクマの手の形をしているクッキー缶、光彦にはペンギンのスノードーム、コナン君には黒猫付きラバーストラップ、園子ちゃんと蘭ちゃんには犬の格好をしたキティちゃん風バングルを色違い、それぞれをプレゼント。

光彦の奴は嬉しそうに受け取りかけてからまた突っぱねようとしたけど、また拝み倒して無理やり渡した。子供なら好意を素直に受け取るべきだと思うね。


prev / next

[ back to top ]



×