「……」
「……う」
「……」
「…………う、ぐ」
「わん」
「うおおおおおっ!?」
凄まじいスピードで後退を見せる、黒い髪の中に赤い髪が混ざっている男。
此奴も主人である。
……しかし、水色の主人の比べて根性がないのである。
「ううう、わん」
「ち、近寄るなよ!」
「わんわんっ!」
「来るなぁぁああああ!!!」
普段の気迫はどうしたのであるか、赤色の主人よ!
「火神くん、他の方にご迷惑ですから大声を出すのは止めて下さい」
「だったら二号を近づけさせないでくれよ!」
「……あまり言いたくないんですが、二号は火神くんに懐いているので無理です」
「はあ!?」
「とても羨ましいです」
吾輩にはジョセフという名前があるが、主人たちはその事を知らぬ。
だから吾輩のことは『二号』、または『テツヤ二号』と呼ぶのである。
テツヤというと、水色の主人と同じ名前である。恐らく主人と吾輩の瞳が似ていることから、そう名付けたのであろうが……安直すぎるというのが吾輩の本音である。
あ、赤色の主人が逃げたのである!
「わんっ!!」
「回り込んできやがった!?」
「二号、その動き、とても素晴らしかったですよ」
「わんっ」
当然である、これぐらいの動き、吾輩にとっては造作もないことなのである。
おて、おかわり、おすわり、ちんちん、そんなもの陳腐すぎてやり飽きてしまったくらいである。
「こんなに良い子なのに……火神くんは不幸ですね。二号の良さが分からないだなんて」
「別に二号が嫌いってわけじゃねーよ!苦手なんだ!!」
「同じじゃないですか」
……苦手はよくないのであるー!!
「わんわんっ!」
「うおおおおお!?」
主人よ、この世にどれだけの犬がいると思っているのであるか!?
そんなに一々ビビッていたら生き抜く事など不可能である!
その腐った性根、吾輩がたたき直してやるのである!
覚悟せよ、主人!
「わおぉおおおおおん!」
「えっ、ちょ、いきなり沢山の犬が、」
「なんで!?」
「どこから入ってきたんだ!!?」
「ドア開けっ放しだー!」
吾輩の部下たちよ、揃ったな!
さあ、やっちまえである!
「わん!」
「わふっ、わおおん!」
「わんわんっ!」
「ぐるるるる……」
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
「……もしかして、これ全員二号が呼んだんですか……?」
『落ち着かなさすぎ』である!(少しは慣れていただけねば困るのである!)
後退! 前進!