吾輩の名はジョセフ。
かつて人間として生を受けた時、ありがたくも吾輩を生んでくださった両親から頂いた名前である。
今の吾輩は人間ではなく、犬であるがな。
しかし、それを恥と思ったことなど一度もない!
奇特な犬――それが吾輩だ!
そんな吾輩の今生は一体、どうなるのであろうな。
食い扶持が足りないようで、店の近くに置いたダンボールに吾輩を入れる元主人を見ながら思う。
「ごめんな……ごめんなぁ、ジョセフ」
元主人は、吾輩に両親と同じ名前をくださった立派な男。
自らの妻子と犬。どちらの方が優先すべきか分かっている、とても立派な男である。
だから泣くな。
さぁ、去るのだ元主人よ。
――と、元主人と劇的な別れを告げてから早十分。
早速吾輩の引き取り手が見つかった。
「……捨て犬、ですか」
今生の吾輩は中々に愛らしい見た目をしている。
目の色は珍しい水色だ。
吾輩と同じ水色の瞳と、同じく水色の髪をした未成年の男に拾われ、吾輩は今、ここにある。
「こ、こいつをそれ以上近づけるな!」
「おー、可愛いなこいつ。……黒子そっくりだけど」
「火神、こいつ大人しいから大丈夫だぜ?」
「黒子に似てるけど、よく見ると目に光が入ってるな」
今回の主人は沢山いるのである。
とても個性的で、良い人たちばかりだ。
……しかし。
主人たちはばすけっとボール、という競技に夢中らしいのであるが、
吾輩を拾ってくれた張本人であるくろこてつやという男は、どりぶる(ボールを跳ねさせながら走る行為の通称らしい)がとてつもなくヘタなのである。
「はぁ、はあっ……!」
普段はそうでもないのであるが、犬のようにはあはあと言い出して汗をだらだらとかき始めると。
「くっ」
ツルッ……ボン、ボンッ……
ああいう風にボールを落としてしまうのである。
ただ、主人はどりぶるもぱすもヘタクソであるが、根性は人一倍あるのである!
だから毎回諦めずに練習を繰り返しているのである。……中々上達しないのも、また事実であるが……
吾輩は主人が落としてしまったボールを追い、頭で押しながらコロコロと主人の下へ移動させる。
「わんっ」
「あ……ありがとうございます、二号。良い子ですね」
「わふぅ」
これぐらい当然なのである、主人よ!
『おとしすぎ』である!(落としても気にせず、練習を続けるのである!)
後退! 前進!