黄金ペア
※アニメ準拠
「ナイスプレーだったよ、英二」
先にコートを出たオレにも同じような言葉を優しく掛けてくれた不二に、英二が応える。あんがと、と喉の奥から絞り出すような声は不本意だったらしく、小さく咳払いをした。タオルを受け取りながら、他に声を掛けてくれた皆に、多分笑顔を作っている。
「こうなったら、ぜーったい活躍、しちゃるもんね!」
オレの視線はコートに向いているから、英二の顔は見ていない。入れ替わりにコートに入った手塚と海堂の試合が始まると、オレや英二を労っていた青学メンバーたちの視線も自然とコートに吸い付けられた。
すうっと気配が動いていくのが、どうしてか見なくても手にとるようにわかってしまう。
英二は黙って、オレの隣に陣取っていた。
「海堂、負けんにゃ
…!」
多分、少し茶化すように笑っているんだろうなと思いながら英二の声をすぐ隣から聞く。
オレはやっぱり英二を振り向けない。
そんな精一杯、普通の振りをしたって駄目だ。
さっきから、ずっと喋るたびに英二の鼻が小さく鳴っているのがわかっている。たったいまの試合で英二がまた目を潤ませていたのは、正面から見ていた。
すぐ隣を、振り返ってしまったら。今、間近で目を合わせてしまったら、きっと自分だって英二とそっくり同じになる。もしくは、もっと酷いことになりかねない。
青学ゴールデンペア、急に二人とも号泣なんて目も当てられない。
大体、あんなふうに言って、勿論、嘘は無いが、やっぱりここまで来て別れるのは辛いだとか、本当に一緒に最後のテニスがもう少しできるのかと思っていたのだとか、何もかも格好がつかない。
すぐ隣からずび、なんて間抜けな音を聞くたびに、喉の奥がちりちりと焦げるように痛むのを必死に飲み込んだ。
きっと、これがオレにわかるように、英二にもわかられているから、オレはやっぱりぐっと顔に力を込めて踏ん張る。
コートを見る視界がほんの少し、ぼやけて滲んだ。
29th.Sep.2021
↑back next↓