日岳


 少女マンガみたいな夢を見た。

 現実ではありえない光景だった。いつも生意気な口しか利きやしないあいつが、俺を見て微笑むのだ。それからいつになく優しい声なんか出したりして、女の子にするみたいに、肩を抱く。俺はほとんど声も出せずに、ようやっとあいつの名前を呼んだ。あいつは「顔、赤いですけど」とようやくいつものように生意気を言ったけれども、俺がムキになるより早く、また信じられないようなことを言った。ばかみたいに、現実からかけ離れていた。





「何すか、向日さん」
「ど、うもしてない、だろ!」
 あからさまに動揺してしまっていた。冷や汗をかきながら奴の反応を窺う。幸いと言うべきなのか、やはり現実の日吉はそこまで俺に興味がないようだ。へえそうですか、とだけ言ってとっととコートに向かって行った。その背中を見送りながら、また俺は思い出してしまう。あんな夢、見なけりゃ良かったのに。






「どないしたんやぁ、岳人?」
「侑士!」
 聞きなれた声が今は天の声にも思えた。抱きつかんばかりに彼のジャージを掴むと、侑士は慣れた様子で少しずれた眼鏡を直した。「まずいんだよ、俺!」
「はぁ?あのなぁ岳人、とりあえず物事は、順序立てて説明せなぁ、あかんて、いつも言うとるやろ」
 嫌味たらしいほどに順序立てられた台詞を侑士が並べている間にも俺は今朝見た夢を思うと、居ても立ってもいられなかった。だから、まずいんだってば、侑士! まずい、まずい、ばっかりじゃあ、さすがに俺もなんもわからへんわぁ。 それくらいわかれよ! 理不尽な物言いにも侑士は眉を下げるばかりだった。そうは言うてもなあ、自分…。







「あの二人気持ち悪いんすけど。ホモなんすか?」
「んーどうかなぁ」
 ちょうどぼんやりと目を覚ましたところに声を掛けられて、芥川は相変わらずむにゃむにゃとした返事を寄越してやった。
 ちょうど虫嫌いが虫を見るのと同じような目をして部室の方を見る日吉はどちらかというと少女漫画ではヒロインの靴に画鋲を仕込むような役回りなのかもしれない。ぼんやりそう思ったことも、やがて芥川の夢のなかへと引き込まれていくばかりだった。



18th.Jun.2011

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