アクタカ
珍しく日の昇りきってしまうより前に目が覚めた。
ひとつには、腕から肩にかけてずっしりとした重みがあったせいかと思われる。
自分の腕を枕にのうのうと惰眠を貪る彼を、亜久津は寝起きの顔をひしゃげて眺めた。安らかな寝顔には悩み一つ抱えたことすらないようにも見える。薄く開いた唇からは間抜けなものでわずかに涎が零れている。阿呆面、と浮んだ言葉はあながち罵詈の類とも言えないだろう。まったく思い切ってこの頭を畳の上に叩き落としてやろうかとも少し考えたが、結局、どうにもその腕が持ちあがることはなかった。
しょうがねえ、なんて自分も甘くなったものである。
珍しく日が昇りきってから目が覚めてしまった。
ひとつには、身体をがっしりと抱きしめていたこの体温のせいなのかもしれない。
自分の身体をまるまる抱き枕にされた心地はなんだか面映く、居づらい気持ちもあるのだが、身動きが取れないのではどうしようもない。しかしいつまでも寝ているというのも如何なものかと河村が頭を悩ませ始めた頃、彼が身じろいだ。
「あ、おはよう亜久津」
「アァ?……おう」
髪の毛の乱れた亜久津を見るのにもこの頃は慣れてきた。前髪のほつれて額に垂れているのを避けてやって、河村は笑う。相変わらず亜久津の腕による拘束は解けぬままだ。おい、亜久津と河村は控えめに声を漏らす。
「もう昼になっちゃうけど、まだ起きないの?」
「うるせー」
指図すんな、と唇の中で子供のようにごねて亜久津は再び瞼を閉ざしてしまった。また先よりも少し強まった拘束の中で河村は息を吐く。
しょうがないなあ、なんて自分はいつも彼に甘いのかもしれない。
(「朝の畳の上」「貪る」「枕」)
14th.Jun.2011
↑back next↓