加賀今日

※ZERO前後


 彼女は今夜いったいどれほどのアルコールを体内に摂取しただろうか。蒸気した頬を見ながら、加賀は目を細めた。これってまた俺が抱えて送り届けて差し上げなきゃならないのかね。
 酔っ払いにバレないように小さく息を吐くと、ぐいとグラスを押し付けられた。加賀くんももっと飲みなさいよ。ジューブン飲んでますけど。
 そうかしら、ととろりと据わった目のまま、彼女はまた自分のグラスを傾けた。あーあ、こんなに飲んじゃって。……十分に良い女、なのにな。
「アンタはいいのか」
「何の話?」
「新条のこと、好きだったんじゃねーの」
 みきちゃんにやっちまって良いのか? 友人を慰める柔らかさで笑みを浮かべ、加賀はグラスになみなみと注がれたカクテルに唇を付けた。やはり彼もまた、酔っているのかもしれない。
「誤解しないでちょうだい」
 加賀の言葉に、今日子は奮然とした口調で返した。瞳に灯る色が、変わった。アルコールに溶かされかけていたそれが、サーキットの風を受けたかのように焔を取り戻す。
「私はドライバーとして、アオイを背負えるレーサーとして新条くんに期待を掛けてきたのよ」
 ふーん、と加賀はわかったようなそうでないような相槌を打つ。真剣に聞きなさいよと今日子が眉を吊り上げる数瞬前を狙ったようなタイミングで、彼は唇に言葉を載せた。
「…んじゃ、俺も?」
「おれも?」
 予想していなかった台詞に思わずオウム返した今日子に、加賀はさらさらと言葉を紡いで返した。
「俺もアオイのドライバーだろ。俺は新条くらいに想ってもらえんのかい?」
「当たり前よ。じゃなきゃ何度もあなたにオファーを掛けてまで雇ったりしないわ」
 ただし、私は勝てるドライバーに期待してるのよ。 そう艶やかに笑う唇に、加賀は鼻を鳴らした。
「期待、ねえ…」
 加賀はカクテルの入ったグラスを傾ける。からんと氷の鳴る音が軽やかに笑ったようだった。
「ま、それなら俺は新条よか有望だ」
「あら、それってどういう意味かしら」
「どういうもこういうもねーよ」 
 酔っ払いの女王様は早いとこお城に帰んな。肩をすくめて加賀は会計を始めた。これには正体の無かったはずの今日子も目を丸くした。
「何だよ」
「加賀くんが払ってくれるなんて、明日は槍が降るわ」

(槍が降るのも)
(彼女や彼が誰かを想うのも)
まだ未来の話


13th.Mar.2010

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