ジャンと高松

 ちりちりと大地そのものを焦がすような日差しの下で、前時代よろしく手作業で畑をいじっている男が居る。大嵩な麦わら帽子が彼の顔に大きく影を作っているのが背後からでもわかった。
「恐ろしい程似合いますね、アンタ」
 うん?と首を後ろにひねって彼は声の方を仰ぎ見た。高台の手摺に寄りかかっていた高松は、日に焼けた彼の顔と目が合い、目を細めた。どうにも、死んだはずの男が以前以上に健康的に笑うさまは高松からしてみれば気味が悪かった。
「これか?サービスがくれてさ」
「は、そうですか。とってもどうでもいい情報をありがとうございます」
「降りてこいよ。お前にも聞いときたいんだ」
 こうも快活に笑まれてしまうと、ヤですねと無碍にしたい衝動もあったが、そもそも彼のやる畑に興味があって出向いたのだ。大人しく階段を下って彼の庭に足を踏み入れた。ひさしも無い彼の庭は、まるで南国を思わせるようだった。再現か、とセンチメンタルとも邪推ともとれない感想はあえて言葉にしなかった。
「何?」
「いえ、別に。クソ暑いなと思ったぐらいですよ」
 あ、そう?とジャンは暢気に空を仰いでから、何かを思いついたような顔をした。それを不愉快に思い眉をひそめる前に、高松の頭上の空は覆われていた。
「おお、恐ろしく似合わんな」
 お世辞にも被っているとは言えず、言うなれば乗っけられたとしか思えない麦わら帽子が高松の顔に大きな影を作っていた。


21st.Sep.2013

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