森銀



 ときどき、考えることがある。
 カーテンの隙間から差し込んできた陽光に気付くこともなく森田は穏やかな寝顔を晒している。服は着ていない。春用の薄めの布団も暑かったのか少しはねのけてしまったらしく上半身の殆どが露出している。
 そんな彼のあどけない寝姿を眺めながらふっと頭の後ろを掠めるように考えがよぎるのだ。








「…え、銀さん?」
「おう、起きたか」
 お早うと唇を曲げて笑んでやると、森田は相変わらず怪訝な顔をしたまま律儀に挨拶を返した。その様子に満足したように銀二は再び露わになっている森田の肩口に噛み付く。痛みを訴えるほどではない。銀二の顎に加わる力は緩やかで、甘く食まれているようなものだ。
「あの、朝から…ですか?」
「なんだ、やりてえの?」
 若いねえと喉を震わして銀二は笑う。森田は半身を起こして、まだ事態が把握できないといった様子で二三目を瞬かせた。下ろされている長い髪が頬をくすぐり、案外滑らかなそれに銀二はキスを落とす。森田はますます目を白黒させた。
「ちょっと待って……銀さん、俺まだ起きてない」
 まだ夢の続きかとでも疑っているのか森田は銀二を押しやろうとする。しかし銀二は、離れない。構いやねえさ、寝てろよとは余りに横暴だ。どうせなら起きてからしたいなあ、俺。そういう森田の要望は和えなく却下された。良いんだよお前はしないんだから。
「え……?どういうこと」
「食っちまおうかと思ってな、森田を。ムシャムシャ……ってな」
 なんてことないだろうと銀二はまるで朝食を語るのと同じように簡単に言った。
 一瞬その歯が自分の皮膚を破るさまを想像してたじろいだが、銀二の歯はいつまでも突き立てられることなく矢張り曖昧な刺激を与えるばかりで、緩やかに咀嚼されているような心地に森田は浸けられる。
 眠気と曖昧な痛みはない交ぜになり森田の頭をぼんやりと霞がからせた。どうやらしばらく解放される見込みもない。このまま再び眠りに落ちてしまおうか。
 もしかしたら、次に目覚めるときには銀二の胃の中やも知れない。それはちょっとぞっとしねえなあ。そう思いながらも、そのときはそのときかとも考える自分が居ることにこそ、ぞっとしなかった。



26th.Apr.2011

↑back next↓



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -