鉄サニ

好きなものの話

 ニヤニヤと笑っている。そう形容するのが相応しいとしか言い様のない緩みきった顔の男を、サニーは訝しんだ。こんな顔だったかこいつ、と思ってしまうくらいに。その顔、どっかしたのか? 皮肉っぽく言ってみた言葉も、どうやら今の彼には通じないらしい。相変わらず柔らかく弧を描いた唇で鉄平は答えた。
「へへ、ちょっとね」
「んだそれ」
 彼とは対照的にあからさまに不機嫌な顔をしてやると、聞きたい?とこれまた気持ち悪いくらいに機嫌のいい声が言う。ま、聞いてやっても良。どうでもよさそうに言いながら律儀に彼の正面に腰掛けたサニーに、鉄平は新しくコーヒーを淹れてくれた。どうやらいつもの彼の悪癖で、長く話したいらしい。
「食材の再生に成功したんだ」
「お前、それいつもじゃネの?」
「いつもってわけじゃないよ。上手くいかないこともすげえ多いし、再生より保護が主だしね」
 ふうん、とサニーはコーヒーを息で冷ましながら口をつける。どうせなら紅茶が良かった。
 再生屋の仕事などこれまで近くで見ることもなかったし、鉄平のようによく話す同世代の友人が再生屋にできるとも今まで思っていなかった。美食屋であるサニーには、結局その仕事の尊さくらいはなんとなく理解できるが、その喜びややりがいなどまではよくわからない。
 ただ、さっきからいつにないほどに目を輝かせて話し続ける彼の様子を見ていれば、ほんとうに彼がこの仕事を好いていることはよくわかった。きっとこの調子では、コーヒーがすっかり冷めてしまう頃になってもこの講説は続くに違いない。その前に二杯目を要求してやろうと、そろそろ専門的な言葉まで出てきた彼の話をやんわりと聴きながらサニーはカップを持ち上げた。
「ま、んじゃソレ今度食わせろよ」
「おう、任せといて」
 にこにことだらしない顔で快活に笑った彼に、結局コーヒーのおかわりを要求した。あ、紅茶にしとけって言えばよかった。そう思ったのも後の祭りで、既に彼はコーヒーメーカーに新しいフィルターをセットしているところであった。


17th.Feb.2013

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