鉄サニ

ダイエットの話

 無駄な脂肪分は大敵、油分は控えめ、ヘルシーで美しい食材をとることを心がけること。そういうきょうび若い女子でもなかなか言い切れないようなことを彼は堂々と有言実行しているらしい。
 へえ、と答えた声は間延びして皺の寄ったシーツにくるまれるように落ちていった。鉄平は彼の言うことが不思議だとも思ったし、彼の性質からすれば当然であるかとも同時に考えていた。すると、一糸纏わぬ姿のまま、姿見を見たりしてずいぶん忙しそうであった彼はぐるりと首を曲げて鉄平を見た。
「んだよ、おま聞いといてそんだけ?」
「ううん、そんなに必要なのかねえと思って」
「油断は美容の一番の大敵だかんな」
  嘯く彼の身体を眺めるに、それは無駄のない彫刻や芸術品のようで鉄平は感嘆する。なるほどねえ。ぼんやりと無意識に唇が動いてしまったらしい。こちらを見るサニーの青い目がらんらんと輝いている。
「てっぺ、ダラシネ顔してっぞ」
「わあ、そりゃ恥ずかしいな」
 すり、と頬にきれいな手を伸ばされてはますますだらしない顔に拍車がかかってしまう。右の瞼から頬にかけて走る傷をゆっくりとなぞられて、くすぐったさと悪戯な欲がじわりと染み出してしまう。こんなふうに柔らかく触れられてしまえば、こちらだって触りたくなるに決まっているのに。
「サニー」
「ん?」
 次はリーゼントの崩れた髪に触ろうかとしていたサニーに、鉄平が手を伸ばす。触ってもいい?とは聞かなかった。
「お腹、キレーな。ダイエット完璧」
「はっ、たりめーだろが」
 きれいに割れた腹筋を撫でてから、どうもたまらなくなってその腰を引き寄せるように抱えた。ベッドサイドに立っているサニーの腹に頭を摺り寄せるようにして、やはり無駄なく締まっている滑らかな腰を撫でていると、どうも気分がいい。良いなあ、どこもかしこも触りたい。あんまり気持ちが良くて、このまま眠れてしまえそうだった。
「……お前、好きだなぁ、レのこと」
「そーなの、困ったねえ」
 すっかり呆れきっている声色も、この手のうちに捕まえてしまえればいいのに。こんなバカみたいなすりすりを繰り返しているうちに、朝が来て夜が来てそのまま昼夜もなくなってしまうのかもしれない。さすがにそれはちょっと困るかなあ。困ってもなんでも、今はそれでいいのだけれど。


17th.Feb.2013

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