トリココ

トリココへのお題三種:大好きなその声に振り向くと、君はふっと笑った。/「違うよ。そうじゃない」/お前の饒舌は孤独感の表れ bit.ly/sVfzD4


 その日のココはやけに饒舌だった。どうしたと尋ねてみればやはり気持ちの悪い笑顔でべらべらと喋りだした。 何、お前が来るのが久しぶりすぎただけさ。喋ることがずいぶん溜まってしまったんだ。元はといえば、お前がすぐに不精するからで。だいたいトリコ、お前の方には話すことは無いのか。 そんなココの言葉たちには、さほど意味などないような気がした。
「なんかヤなことあったか?」
「違うよ、そうじゃない」
 上手く嘘を吐こうとするココは、本当にそれが俺にはわからないと思っているのだろうか。ココ、と諌めるように呼べば呼ぶほどに化けの皮が剥がれていく。トリコ、と応える声がどんどん震えていくのは、何もゼブラのような地獄耳でなくたってわかるはずだ。
 よしよしと頭を撫でてみると、ぴくりと肩を震わせたが、されるがままになっている。ははあ、こりゃあ随分だなあ。しばらくあって、ココがぽつりと呟いた。
「ボクのがお兄ちゃんなのにな」
「そーだな。ま、もしものときには頼りにしてっぜ、オニーチャン」
 ふふ、と笑う気配がする。 こんなデカくて食いしん坊ちゃんの弟、ボクの手には余るんじゃないかだと。 うるせえや、もっと喋っちまえ。
情けない、誇らしい、嫌になる、隠していたものをぼろぼろとココはこぼし出した。それをゆっくりと残らず咀嚼してしまっているうちに眠気がやってきてしまって、トリコはたまらず寝こけてしまった。 寝たのか、トリコ? 尋ねる声に寝息だけが答える。 なんだボクをこんなにしておいて寝ちまうのか、お前はほんとうにほんとうに。 そう思ったくらいで、ココもすっかり眠くなってしまった。久しぶりに寄り添って眠る夜は、とても窮屈で、ほっとした。

夢には、幼ない自分が居た。嫌だなこんな日にも、昔のイヤなものを見なくてはいけないのかと思ったが、その予想はあっけなく外れた。小さな彼は、追い立てられるでなく、チューブにつながれるでもなく、ただ可愛い弟分に名前を呼ばれて、向こうへ走り去ってしまった。おおい、夢がボクをおいてくなよ。呆れて笑うと、自分の傍だってずいぶん温かいことに気がついた。


3rd.Oct.2012

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