ゼブトリ

▼変われるしあわせ

「お前も結構丸くなったよな」
「ああ?んだそりゃチョーシのってんのか?」
「のってねーよ」
 まだすんでのところで拳やボイスミサイルの類は飛んできていない。この時点で、本当に変わってきているのだとトリコは思う。無論、良い方向にである。変えたのはきっと、小松だ。あまり詳しくは聞いてないが、なんやかんやとゼブラと対等に話をしたらしい。あのゼブラと、あの小松が。色々思うところは無いわけで無いし、小松とコンビであり、ゼブラと旧知である自分からすれば複雑なところもあるが、彼にトリコとはまた違うスパイスをきっと小松は与えたのだ。 
  ココやサニーはこれまでのゼブラのしてきた行いで、ずいぶん毛嫌いしてしまっていたが(まあ俺だって極力関わんねえ方が良いのかなとはしょっちゅう思うけど)、今なら少しその見方も変わるのではないだろうか。それっていうのは何だろうなぁ、案外ーーあれだな。喉の奥からむずがゆい震えがのぼってきた。クク、と堪えきれずにそれをトリコは押し出した。
「俺は嬉しいけどよ」
「チョーシのってんだろ」
「だからのってねーって」
 くだらない言い争いをする四天王の巨体二人を、小松が向こうから複雑な顔で見ている。そういや今日のメシ、なんだろうなぁと思わず零した言葉に、ついさっきまで肩を怒らせていた男がすぐに涎を垂らし始めた。うわ、またすぐにでも口裂けそうじゃねえかコイツ。面倒くせえなあと先の作業を憂鬱に思いながらも、やはりなんとなく胸の奥がわずかに温まるような心地がした。



▼(たすけて、くるしい。きみがほしい)

「テメエ、いま息止まってやがったぜ」
 浅い呼吸はいまだ正常であるとはとても言えない。酸素が足りなかった。下手をすれば、こんなところで自分は簡単に死んでいたのかもしれない。グルメ細胞をその体に飼う四天王が、こんなにも簡単に。整わない呼吸のうちに、笑いが混じる。はっはは、は。何が可笑しい?と目の前の巨漢が訝しげにトリコを見る。
「・・・まさかお前に救われるとはなあ」
 ゼブラの眉がぴくりと跳ねるも、ありがとよと続けられた苦しげな声にその怒りは収められる。ただ一言返された「調子に乗るなよ」とは彼なりの優しさであったかもしれないが、今はそれでも少々足りない。せなか、とジェスチャーで伝えると、嫌そうな表情を全面に押し出しながらも太い腕がトリコの背中を伝った。本来の呼吸のリズムをまるで知り尽くしているかのように、心地よくさすられていると、トリコの呼吸もやがてそこそこに取り戻された。
「ん、すまねえ。・・・ありがとな」
 大きな舌打ちを響かせて、ゼブラは最後に苛立ちをぶつけるようにトリコの背中を叩いた。ばちんと耳をつんざくような音とともに、痛え!とトリコが涙目になる。そのまま睨もうとすると、既に彼の恩人は好戦的な光を瞳に灯していた。
じゃあ、やるか? やらねーよバカ!



▼手を繋いだらわかる事

「仲直りの握手です」
 小松の発した言葉に、両者は愕然とした。
「なんだよ、握手って」
「小僧、チョーシのんなよ」
「のってません!とにかく、もう握手でやめましょう!じゃないともう僕お二人のごはんつくりませんよ!」
 小松の脅迫に、仕方なくトリコは腕を差し出したが、ゼブラの方が動かない。トリコは小松と二人してじとりと睨みつけるが、彼は意に介さず知らぬふりだ。
「テメエゼブラ、小松のメシがかかってんだぞ!」
 ああもうこのまま喧嘩すりゃまた小松がむくれるだろうし、ゼブラはもうむくれてやがるし、俺はとにかく美味いメシを逃したくねえ。思うより早く、トリコはゼブラの腕を乱暴に奪い取っていた。
「はい!なかなおりな!!!!これでいいか小松!!なんならキスでもなんでもしてやる!!」
「いやキスはいいですよ!」
 チョーシにのってんじゃねえぞとまた彼の咆哮が始まるのは言うまでもないことだった。


3rd.Oct.2012

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