鉄サニ


 ざあざあと容赦なく降り続ける雨は、ワイパーで切っても切っても次々にフロントガラスを覆っていく。鬱陶しいものだ、雨くらいどうということもないのだから歩いたほうが返って楽だっただろうか。ああでも、雨はせっかく固めたリーゼントも無駄にしてしまうかもしれないし、これで良かったのか。そんな鉄平の思いを知らずしてか、その後頭に能天気な声が掛かる。
「てっぺはさ、けっこ何でも出来っよな」
 はあ、左様でございと元々下がり気味の眉を下げて鉄平は、後部座席に広々と我が物顔で腰掛ける彼の言葉を聞いた。車の運転くらいで何を、と内心は思っていたし、そもそもお前は運転しようなんて考えもないんでしょうがとか不満も尽きなかったが、口は災いの元。その精神はかろうじて鉄平の中に未だ生きていた。
「マジ、オレはやりたくねっけど、そやってレの為に運転すんのはなかなかつくしいと思うぜ」
「はあ、そう……そりゃどうも」
 不思議と褒められている気は全くしないが、おそらくそれは彼なりの労いであったし、何より彼はずいぶん上機嫌らしいのでいろいろと言いいたくなるのはやはり喉の奥に留めておく。
「そうそ。んな器用にいろいろやるやつ、あとココくらいしか知らねーし」
 ああ、その便利なやつカテゴリに俺も並べて頂けたのね。そりゃ光栄です。嬉しいねえ、俺褒められてる。
「しかしそう比較みたいに言われてもねえ」
「…あ?」
「いやあ別に、そんな前の男と比べるみたいなこと言われてもねえ、俺としてはなんて言ったらいいんだかわかんないし、本当はその人のほうがいいのかねとか思わないわけでもないし、てゆうか俺ってそいつのこと思い出すためのダシにされたようなもんなんじゃないのとか、そんなことは言うつもりもないけどさ」

 ん?

「なに言ってんの、前」
「……何だろうなあ、本当に」
 ざあざあと煩かった雨の音が今は返ってありがたいくらいだった。






3rd.Oct.2012

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