アクタカ

 やっぱり大晦日はこれだよなあ とか河村が嘯いた国営放送局の歌番組もフィナーレを迎え、きゅうに部屋の内がしんとなった気がする。
 河村の部屋で、半分眠ったような目をしたまま亜久津は肩まで炬燵に浸かっている。今どき流行のアイドル歌手も、昔から出ているような演歌歌手も亜久津の興味の対象ではなく、そもそも亜久津は出演者のほとんどを知りもしなかった。何が面白いのかと疑問を感じつつも、とくに他に見たい番組も無かったのでテレビは河村のやりたいようにさせていた。
 そうだ、蕎麦食う?と河村が席を立ち、ほどなく二人分の蕎麦を盆に載せて戻って来た。炬燵のテーブルにそれを並べて、河村も再び炬燵に潜りこむ。亜久津が足を伸ばしているせいで河村は足を伸ばせないが、今更文句を言うつもりもないらしい。
 あたたかい蕎麦の香りに、亜久津もようやく体を起こす。いただきますと河村が手を合わせて箸を着け始めるのを横目に、亜久津も音を立てて蕎麦を啜り始めた。
「でも大晦日なのに、優紀ちゃんはいいの?」
 暗に二人きりの家族であることを気遣っているらしい河村の気持ちはわからないでもないが、んなこた今はどうでもいいじゃねえかと亜久津は面倒くさそうに顔をしかめた。しかしその程度で河村が退くこともそう無いことだって知っているので、仕方なく蕎麦を運ぶ手を休めて端的に教えてやることにした。
「ババアなら、今年は彼氏と過ごすんだと」
「えっ」
 驚きに河村は危うく箸を取落とすところだった。それから女が彼氏と過ごすということに何を想像したか、わかりやすく耳まで真っ赤にした。アホか、あんなババアが何して過ごそうと今更じゃねえか。――だいたい、テメエだって今、彼氏と過ごしてんじゃねえの、 とそこまで考えて今度はかえって亜久津の方が舌打ちする羽目になった。まるで自分の方が浮かれている。
「いやぁ〜驚いた、今年一番のニュースだったよ」
 そんな亜久津の様子も気に掛けていないらしい。ようやく頬の赤みが薄れた河村は気の抜けたような溜息をついた。そうかよ、と亜久津も自分の柄でもない考えを少しも読まれていないことに微かに息をついた。
「まあ、もう終わるけどよ」
「ああ本当だ」
 壁にかけられた時計を見ると、啜っていた蕎麦を置いて河村は亜久津に向かって笑い掛けた。今年もよろしく、と柔らかく落ちてくる言葉を聞くのも案外悪くもないものだ。おう、とだけぞんざいな振りを装って応えると亜久津も再び蕎麦を啜った。



31st.Dec.2011

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