達海とごとゆり

「有里ちゃんも女の子なんだよなあ」

 話の流れはいかなものだっただろうか。これだけ働いていると恋人を作る暇も作ろうと思う間も無いとかそういった他愛ない話だったか。そうだ、そこから親戚のおせっかいなおばさんの話が出た。おばさんってば、お見合いの写真とか持って来ちゃってさあ、あたしそんな暇ないって言ってるのに。だいたいまだそんなトシじゃないし。
 そこまで聞いて、なんとなく後藤の頭はぼんやりとした。調子よく返していた相槌も止まり、有里は怪訝そうに後藤の顔を覗き込んだ。何、ぼけっとして。そう言う有里にようやっと返せた言葉が先のものであった。
「なにそれ、ちょう失礼だよ後藤さん」
 ぽかんと口を開いた後に、いつもは達海あたりに向けるようなしかめつらで彼女は後藤を睨んだ。あ、やってしまったとずいぶん年下の彼女に頭の上がらない思いをするのはこれで何度目だったか。
「いや、まあ…ほら有里ちゃん、すごい働いてくれるだろ?だから、つい」
 ふーん、と言ったきり有里がそれ以上話を掘り下げて来なくなったので、後藤は思わず胸を撫で下ろした。なんでまたこんな思いをしているのだろうかと自分に疑問を感じないでもない。






 *





例えば、

キスしようとか言ったらそれは本当に親愛みたいなものになるだろうし、やらしいことなんかそれこそ違うってなるようなそんな間柄なんだよな





 ふーん、というのがそこまでのチームGMの世間話とやらを聞いたチーム監督の感想だった。お前本当興味なさそうだなあと後藤はイカの塩辛を摘んだ。それをちょうど箸から口に移すようなタイミングを狙って、興味ないわけじゃあねえよと達海もまた箸を持ちあげた。首を傾げる後藤に、旧友はあのさあと嘆息に少しの好奇心を混ぜて伺った。
「それって言い訳?愚痴?相談?」
「え、いや……」
「頼むからさあ後藤、自分でもわかんないとか言うなよ」
 GMがそんなんじゃチームの先が思いやられるぜ。塩辛をくちゃくちゃと嫌みなほどに噛み潰して達海は笑った。俺はときどきお前のそういう振る舞いに不安にならなくもないけれどという言葉はなんとか飲み込んだ。
 まあとりあえずさあと噛み切れなかったらしいイカの端を皿の隅に捨てながら達海は後藤の目を覗き込む。汚えの。はいイカ見てないで、ゴトーのお友達の俺からのありがたいお言葉があんだから。へいへいと聞いてやる姿勢だけ見せてやると、達海はわざとらしく咳払いして後藤の肩を叩く。
「とりあえずあれだよ、後藤。男は一度やってみたら、わかるっしょ」
「達海、お前・・・・・・」
「うん」
「サイテーだな、わりと」
「不思議とよく言われる」
 ふは、と吹き出した後藤の口からも塩辛が少し零れ落ちた。汚えの、女に嫌われるよゴトーと言ったのはどの口だったか。いいんだよ、俺は女の子か微妙な線が好きなんだから。うっわ本当お前、シツレーってか、わかってんじゃん。にやにやと笑う旧友に、アルコールのせいも幾分かはあるであろう強気な開き直りを見せて後藤も笑い返した。まああれだ、男ならいやらしいこととかは二の次だなあ。うん、ゴトー失礼な。


25th.Jul.2011

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