アクタカ

 つい最近、河村と亜久津はお付き合いを始めた。中断していた友人としての付き合いを再開したという意味ではない。初めての交際、それも幼馴染の同性とのもの。正直言って河村はこの関係を少し持て余していた。おそらく亜久津にしたってそうなのだろうが、いかんせん彼の方は普段から愛想が無い。 以前よりも少し気まずい二人きりの家路に、河村はやはりこの距離を持て余していた。苦し紛れに河村は、おどけたように眉尻を下げて笑った。
「えーと…手でもつなぐ?」
「んなことするわけねーだろうが」
「そうだよなあ」
 にべもなく吐き捨てられ河村はため息を吐いた。亜久津の言うとおり男同士手を繋ぐなんて、妙な話だとは河村も思っていた。そもそも自分達が付き合っているっていうのが妙なのか。しかも自分達ときたらお互いに図体は大きな方に間違い無く分類される。
 付き合うって難しいもんだなあと河村は赤く染まり始めた空を見る。電線に止まったカラスと目が合った。カアと鳴かれてなんとなく笑われたような気がした。自分達の事情などおよそ道すがらのカラスが知る由も無いっていうのに。
「おい」
「うん?」
「てめえ歩くの遅すぎんだよ」
 ごめんと謝る間も無くぐいと腕を引かれて河村はたたらを踏んだ。ああ、なんだろうなあこれ。久しぶりに触れたその手のひらの感触のむずがゆさに河村は唇を曲げる。にやつくんじゃねえと亜久津は顔をしかめた。
 うん、ごめん。今度こそ謝って、けれどやはり河村は頬を緩めたままだった。亜久津の舌打ちはちょうど飛び立ったカラスの声に紛れ、いつの間にかもう空だけでなく地面までもが赤く染まっている。付き合うってこんなものだろうか。頬の内側をつつくような面映さに河村はたまらず少し声を弾ませていた。なあ、亜久津。ああ?と首だけを曲げた彼の手を掠め取るように奪い返した。
 手のひらを合わせたのは小学以来だろうか。亜久津の指の間に絡ませた自分の指に河村は力を込める。きっと自分はこれからも色んな亜久津を受け止めるし、亜久津もまた河村を受け止めていく。手のひらからわずかに感じられる脈動に、なんとなくこれからもずっと生きていたいというような漠然とした思いが湧く。いままで生きていく理由なんて考えたこともないのに、まるで今はそれが目の前で確固たる形になっているように思えた。
 ちらりと窺うと、亜久津はまた顔をしかめていた。それでも離せとは言わないのだから、付き合うというのはこういうことなのかもしれない。ひとつずつ、亜久津を感じながら生きていく。それが出来ていたらきっと上出来なのだろう。二人の頭のはるか上空を飛ぶカラスがカアカアと鳴く。カラスが鳴くからというわけじゃないが、帰ろうか、とだけ河村は言った。二度目の舌打ちをして、亜久津も歩き出した。面映い家路は、まだもう少しだけ続く。


27th.Jul.2011

↑back next↓



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -