ももおし温泉
桃忍 2015/01/11


「忍足さんってイタリア!とかそういう感じかと思ってました」
「まあ、嫌いやないけどな」
 ページをめくりながら、忍足は答えた。普段彼が没頭している文庫の小説よりもずっと大判の紙面には、青々とした自然や郷土料理が並んでいる。
「つまらんか?」
「や、俺もスキーとかでしか行ったことないし、楽しみっすよ」
 やはり大判の雑誌を手にした桃城はからからと笑う。ページをめくっては、うまそう!だの、すげーなあだのと賑やかになる彼とは対照的に、忍足は黙々と、しかし着実に角の折れたページをせっせと増やしていた。
 ひとしきり騒いだ桃城はふと、東北と大きく銘打たれた表紙から頭半分を覗かせて、忍足を見つめる。その瞳に、思いつき、という言葉が揺らめいた気がした。
「二人っきりだからって、襲わないでくださいよ?」
「・・・・・・安心せえ。安全日や」
 きゃー、と桃城が両頬を手で挟んで喜んだ。
「あの忍足さんがこんな下世話なことを!こわい!」 
「そうやって喜ぶから言いたくもなるんやけどな」
「俺のせいにしないでくださいよー。あ、お茶取ってきますね」
 やはり人懐っこい笑みを浮かべて、桃城が腰を持ち上げた。


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