■ 海辺で2

全力で走ったおかげで、お店が開く時間には何とか間に合った。

いつもと変わらない煙った店内。
少し違うのは、やってくるお客の中にちらほらいる目つきの悪い輩。亜人狩りについて知っているのかもしれない。

今日は早めに、酔っぱらった客を追い返して店じまい。
二人隣り合って食器を洗う狭い厨房で、兄様が静かに口を開いた。

「…しばらく、お店は閉めることにしたよ」
「…うん」
「お金も貯まったしね、少しのんびりしようか」
「そうだね」

決めたんだ。あたしが兄様を、守る。
あたしにできるのは、ほんの少しだけ。でも、少しでも知っていれば、それだけ無意味に怖がる必要はなくなるもの。

もちろん、深くまで関わる気はない。
戦いの稽古なんて、長い間やっていないから返り討ちどころか敵と遭遇したら爪の先さえ届かないかもしれないから。
あたしと兄様と、少し安心できる程度の情報が欲しい。ただ、それだけ。


一瞬だけ、隣に立つ兄様に目を向けた。
…このことを言うつもりはない。きっと、反対されるから。
心の中だけでごめんなさいと謝って、笑顔を浮かべて観桜会の事を切り出した。


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