■ 海辺で

兄様のお店で、怖い話を聞いた。
亜人狩り、そういう事をしている人がいるんだと…。

真っ先に兄様の顔が浮かんだ。
兄様は見た目が人間に近いから、ばれなければ平気かも知れない。でも、もしもばれたら…?
あたしと兄様の血が繋がっていることは、秘密でもなんでもない。慣れた人なら調べるのは簡単なはず。
怖くなった。大切な人がいなくなるかもしれないなんて。考えられなかった。

お仕事前、気晴らしに来た海辺でもその話を頭から振り切れなくて。どうしようどうしよう。ぐるぐると考えが空回りする。

気が付けば、歩くのをやめていて。

不意に聞こえた優しいメロディに辺りを見回した。
髪を一つに結った、龍人さんが歌を歌っていたらしい。きれいな声だった。

”こんばんは、お姉さん”

こちらに来た人が放ったのは祖国の言葉。不意に、国で待っている兄弟の顔が浮かんだ。
こんばんは、あなたもお散歩ですか?と、答えるのが精一杯だった。


寄り道、と答える人が見せてくれたのは、観桜会と書かれたポスター。

身振り手振りで、桜の木の事を教えてくれた。
不思議。さっきまでぐるぐる考えていたのが嘘みたいにわくわくした。兄様を誘って行ってみようかなんて、……。

気が付けば、日も傾きかけていて。お店に戻らなければ兄様が心配してしまう時間。
親切なその人に頭を下げて、あいさつもそこそこに町へと走り出す。本当はもっと話していたかったけれど…。




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