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悩みの種が消えたようだと天霧から聞いた。


だがややこしいことに当初は自身の居場所を奪った女に嫉妬していたというのに、いつの間にか惚れてしまった。
だが、その女はどこぞの奴に殺され、その悲しさと悔しさにあいつは壊れてしまったらしい。



「弱みに漬け込むのは些かお勧めできませんな」

「俺が欲しいと思ったものはなんであれ手に入れる、どれだけ汚い手を使おうとあれは俺のだ。」


天霧のため息などどうでもいい。
閉じた障子を開け、月のおかげでほのかに部屋の中が見えるが奥は薄暗い。

薄暗い奥で微かに動くものに目を凝らせば探していたその姿に心做しか心臓が高鳴る。


物音を立てぬよう近寄り、そっと前髪を梳けば腫れた瞼と寝息が微かに聞こえた。


あの時よりみすぼらしく見えるその姿でも呼吸に合わせて上下する肩と、顔にかかる髪の毛と、血の気は引いているがまだふっくらとした唇を見ただけで今まで感じたことのないものが俺の中に込み上げる。


「ん……?」


少し瞼が持ち上がり、大きな黒目に月の光が反射してきらりと光った。

ゆっくりとあがる首と目線、俺を認識した時びくりと体が震えゆらゆらと瞳が揺れ始めた。




「ほぅ…どうやら己に何が起こるか理解しているようだな…」


このまま何も飲まず食わず、死んだ女と共に過ごしたこの屋敷で一生を終えようとしていたのだろうが…


「悪いが、俺はお前を殺さん…そして勝手に死なせるつもりも毛頭ない。」







「閻魔だろうとお前は渡さない」




その口布がなければこの気障野郎と顔を赤く染めただろう



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