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障子から零れる光のおかげで今が夜なのか昼間なのか、朝方なのかがわかる。
どうやら今日は月がよく見える澄んだ空をしているのだろう、月の光が射し込んでいる。
そんな綺麗であろう月とは違い、手は縄で結ばれ口には布があてがわれた俺の姿はまるで捕まり拷問を受けた囚人のようだ。
女子のような肌と言われていたが今やその見る影も残ってはいないのだろう。
あれから五日が経った。
涙で熱を持ち腫れた眼がなんと重たいことか。
死を求め叫びつづけた喉は枯れてしまい今や言葉も紡げやしない。
心は最期死ぬ時、誰を想って死んだのだろうか。
あいつに優しくしていた総司や土方さんか?
それとも元の世の家族や友人だろうか?
その片隅にでも俺はいただろうか。
「なまえさん、食事です」
考え事をしており伏せていた目を少し前に向けると既に開いていた障子から月の光を背にした山崎くんの姿があった。
いつもは凛々しい眉を少し下げて心配そうに俺を見るその目は今朝と同じで申し訳なさと虚しさが募るばかりだ。
いつもどおり俺の前に準備した粥を置き口布を外す。
最初に噛んで少しばかり切れてしまった舌がじりじりと痛んだ。
「なまえさん少しでもいいので食べてください、これ以上何も口に入れてくださらないと死んでしまいます。」
それでいい、それが望んだことだ。
首を軽く横に振り山崎くんからもその手にある粥からも目をそらした。
死ねばきっと心の処へ行けるに違いない。
神がいるのならそれだけはどうか叶えてくれ。
そしてこの思いを伝えたい
だけどそれを許さぬ鬼がいる
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