21
なまえさんがいなくなったと聞いた時はこの世の終わりのように感じた。
いきなり井戸から出てきた私をここに置いてくれた命の恩人を今度は私が助けようと思った。
ううん、そんな純粋な気持ちじゃなかったかもしれない。
この頃なまえさんと話していなかったから話すきっかけが欲しかった。
みんな私によくしてくれるけど私がほしいのはなまえさんなの。
こんなに人を好きになったのは初めてで最初は少し戸惑ってしまった。
私のいた時代には絶対いないような人、好き、好き、大好き。
だけど、私もなまえさんを助けたいと言えばみんなが私を睨んだ。
正確には泣いている近藤さん以外の人。
なぜ睨まれたのかわからなくて、言うことを聞かずにその場にいると言えば千鶴ちゃんがいつもの笑顔からは想像できないような目で私に言った。
『私あなたのことが大嫌いで何度も殺そうとしたんですよ?』
千鶴ちゃんの言葉が私の頭の中で繰り返し再生された。
冗談でしょ?と聞いてみたけどわかっている……千鶴ちゃんはこんな時に冗談を言うような人ではない。
それでも冗談であってほしくて聞いてしまった。
そして間違いと言ってくれた総司さんの言葉に一瞬胸をなで下ろした。
『"みんな"大嫌いで何度も殺そうとしたんだよ?』
息をのんだ。
ただ私は睨まれただけじゃない、この体にはたくさんの殺気を浴びていた。
恐ろしくて体中に冷や汗をかいた。
逃げよう、そうしなければ殺されてしまう…!
脱兎の如くとは正に今の私のことだろう。
バタバタと足音をたてながら自分の部屋に飛び込む。
どうしてみんな私のことが嫌いなの?私何かした?どうして私を殺したがるのよ!?
なまえさんに会いたい…会いたい!
「うっ…ぐす………なまえさん…!」
あなたがいないとダメになる
きっと悪い魔女から助けてくれる王子様はあなたなの。
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