「で、恋人も嘘?」 [ 7/20 ]


船長室にて、私たちは机に伏し、大事そうに『紅の小箱』を抱いた、一体白骨化死体を見つけた。
机の中にしまわれていた航海日誌により、この船の名前が『アーセルム号』であり、伏せた遺体はこの船の船長を任されていた『ロンチー』という人物である事。
そして、このアーセルム号は千年もの間、この海域を漂っている事がわかった。

「『ヨームゲン』の町に、『ユイファン』の所に『澄明の刻晶(クリアシエル)を届けなくては・・・か。この人の強い意志が、私たちをココに導いたのね。」

私は、航海日誌を一枚、一枚捲りながら無念のまま死をとげたロンチーを思い、切ない気持ちで一杯になった。

「あ・・・・ありえないわ!!ゆゆゆ幽霊なんていっいないのよっ!!!」

「で・・・・でも、そう考えないと今の状況説明できないよね。」

相変わらす幽霊を怖がるリタ。それに対し、カロルは慣れてきたのか、状況を冷静に受け止めようとしていた。

「それで、澄明の刻晶(クリアシエル)ってどこにあるんだ?」

「これじゃないかしら?」

ユーリの問いかけに、先程まで白骨化死体が大事に抱いていた、紅の小箱を抱え、にこやかにジュディスが答える。
その手に持つ箱には、無理やり取ったのか、彼の右腕から先がくっ付いていた。

「ジュディスちゃん大胆ねぇ〜。」

少し顔を引きつらせながら、レイヴンはジュディスから箱を受け取る。
死の間際まで胸に抱え、死守してたであろう箱を、腕ごとごっそりやる度胸と容赦のなさに、流石に仲間たちも引き気味だ。

「あれ?この箱開かないわよ?」

中身を確認しようとリタが、力任せに箱を開けようとしている。

「鍵が必要なのかもしれませんよ?」

無理やり開けようとするリタの横で、エステルが蓋の合わせ目のところに鍵穴がある事を教える。

「ねぇ、私の知る限りヨームゲンなんて町、聞いた事がないのだけれど・・・・・・。皆は知ってる?」

私の問いかけに、全員が首を横に振った。

「私、この箱をヨームゲンに届けてあげたいです。」

レイヴンから箱を受け取り、ゆっくりとした口調でエステルが、どこにあるかもわかならい町に箱を届けたい、と言い出した。

「あの、ユーリ。箱をヨームゲンへ届ける事、ギルドへのお願いに加える事できますか?」

「駄目だよ、エステル。ギルドは複数の依頼を受けちゃいけない事になってるんだ。」

ユーリの代わりに、カロルがエステルの問いに答える。
確か、ユーリたちのギルドは『エステルを砂漠まで護衛する』という依頼を受けている。

「なら、私が探す。それなら問題ないでしょ。」

落ち込むエステルを励ますように、リタが依頼を受けると申し出た。
仲間の内、正式なギルドメンバーは、カロルに、ユーリ、ジュディスの三人なので、リタはメンバーには入っていなかった。
一同はそれに合意し、アーセルム号から、自分たちが乗ってきた船に移動した。





「あら、お帰りなさい。丁度今、駆動魔導器が直ったところよ。」

船に戻ってみると、あれ程調べて、故障の原因がわからなかった駆動魔導器が直ったと、カウフマンから伝えられた。仲間たちは、エステルが抱える紅の小箱に目線をやり、船長室にいた白骨化死体を思い出す。

「ゆ、幽霊なんて非科学的な事、あ、ありえないんだから・・・・!!」

リタの言葉に、苦笑いをこぼす仲間たち。





夜が更け、満点の星々が夜空を彩る。
あれから3日が過ぎ、明日の昼頃にはノードポリカに無事到着となる。
私は船体の後方で、壁に寄りかかりながら夜空を眺めていた。

(どうしてユーリは許してくれたんだろう・・。)

アーセルム号の中での出来事を思い出す。
私は真実を話せば、彼の側にはいられない、と、勝手に思っていた。
でも、実際は・・・。

(選ばせてくれた?)

彼は、「これからロゼはどうするんだ。」と聞いてきた。
不思議だった。あの時の私の考えに「帝都に帰る」という言葉はなかった。
正体を明らかにしてしまった以上、もしかしたら欲しい情報を故意に隠されてしまう可能性だってある。
側に・・・・いる意味があるのだろうか・・・。

(帝都に帰り、違う方法で模索した方がいいのかしら・・・それとも今のまま世界をまわりながら情報を集めるか・・・。)

ヴィンセント達の事も気になる。
ある意味、私の今の行動は帝国の意思に背く行為。騎士が命令もなしに単独行動をしていいものではない。
アレクセイに私の行動が知れたら、残してきた隊の者たちに危害を加えられるかもしれない・・・。

(なんだろう・・・考えれば考える程不安になってきた・・・・。)


『まぁ、隊の事は任せて下さい。』

『姫様は今日より、少し、自由の身です。』

『俺もアレクセイは何か隠してると思う。』

『ロゼに任せていいよな?』


ふと、ヴィンセントの言葉を思い出す。

『できるだけ情報を集めるわ。』

私は、まだ何もしていない。
ユーリ達と接触できた事に満足していたが、それが最終目的ではなかったはずだ。

(情報を・・・そう言えば、アレクセイはリタにエアルクレーネの調査をお願いしていたはずだわ・・・・トリム港にいたと言う事は、ケーブ・モップの調査は済んだって事よね。リタに詳しく聞いてみようかしら・・・・あ〜でも、このタイミングで聞いたらあやしまれるかしら。)

「お姉さん。何かお困りですか?」

不意に目の前に、紐が無いグレーのブーツが現れた。
そして、そのまま目線を上げると、意地の悪い笑顔を貼り付けたユーリが居た。

「なんだ、ユーリか。」

「うわっ、傷つくんだけどその言葉。」

「嘘よ。どうしたの?こんな夜更けに。」

「それはこっちの台詞。外に出て行ったきり戻って来ないから、海に落ちたかと思って。」

「残念。私そんなドジじゃないわ。」

「財布盗まれたのに?」

「それは、言わない約束っ!」

ははっと笑いユーリは私の目の前にしゃがんだ。

「まだ、外にいんの?」

「チョット考え事。ユーリに正体バレちゃったし帝都に帰ろうかな、って」

「それ、本当かっ!?」

本気で驚くユーリに、私は可笑しくなって意地の悪い事を言いたくなった。

「本当よ。帝都には私の帰りを待つ、かっこいい恋人がいたり・・・。」

「そ・・・そうか・・・。」

あれ?
顔を伏せ、本気で信じてしまったのか落ち込んだ雰囲気をみせるユーリ。

「チョット!嘘よ!?私帰らないわ!」

慌てて私が訂正を入れると、肩を震わせクククっと笑うユーリの声が聞こえた。

「騙したわねっ!」

「ロゼは正直すぎるんだよっ!本当に嘘が下手だよな。」

「・・・・自覚ありますとも。」

嘘が上手ければ、今頃私の幼馴染探しは続いていたはずなのだから。

「で、恋人も嘘?」

「い・・・いるわよ!一人や二人っ!」

「なんだ、嘘か。」

悔しくて、いないなんて言えなくて、ついた嘘もすぐに見破られてしまった。

「それで、何を悩んでるんだ?」

急に話を変えて、ユーリは正面から私の左隣に移動してきた。

「ケーブ・モップのエアルクレーネの暴走について知りたいなって。」

「リタに聞けばいいだろ。」

「あやしまれないかなって。」

「あぁ、そういう事。」

「ユーリもその場に居たんでしょ?」

「あぁ、でも俺エアルとかよくわかんねーし。」

「お願い!情報を下さい!」

両手を合わせ、拝むようにお願いすると。

「いいぜ、毎晩ロゼが添い寝してくれるなら。」

顔を近づけ、至近距離から見つめながらユーリが言う。

「ふ・・ふふふ。」

「何だよ。」

てっきり私が動揺すると思っていたユーリは、急に笑い出した私に、不満げな表情をみせる。

「だ・・だって・・ユーリ、ヴィンスと同じ事言うから・・ふふふ、笑いが止まらないわ。」

「あぁ〜・・面白可笑しくなくて悪かったな。で、ヴィンスって誰?」

「内緒♪」




私とユーリのそんなやり取りを、影で見ていた人物がいたなんて、この時の私は想像もしなかった。
そして・・・。
私だけが、素性を隠し、共に旅をしていたわけではなかった・・・。





第8話につづく・・・・。


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