「喜んで、姫様。」 [ 8/20 ]


「ここが、ノードポリカ・・・・。」

幽霊船の事件もあり、予定より少し遅れて、私達はノードポリカに到着した。
闘技場の街と言われるだけあり、港町を見渡すと、体格のいいゴロツキ共が思い思いの武器を手に、闘技場の方へと歩いて行く姿を多く見られる。古の神殿を思わせるその闘技場は、港町から続く階段を上り、岸壁にそびえ立つ風格を漂わせる造りをしている。
港に着くと、乗せてきて貰った船、『フェエルティア号』を約束通り譲り受け、しっかり護衛の報酬も受け取り、カウフマンと別れた。

「じゃ、俺はドンの使いを済ませてくるわ。」

カウフマンと別れてすぐ、レイヴンは自分の仕事を済ませる為、ギルド『戦士の殿堂』の統領(ドゥーチェ)に会いに、闘技場へ向かうと言う。
『ドン』とは、レイヴンが所属するギルド、『天を射る矢』のリーダー、『ドン・ホワイトホース』の事である。
話によると、ダングレストに現れた、大きな鳥の魔物について教えて欲しい、と言う依頼らしい。

「ね、ねぇレイヴン。僕もその・・・・戦士の殿堂の統領に会いたい・・な。」

遠慮気味に、カロルがレイヴンに申し出る。

「これは、天を射る矢と戦士の殿堂との話で、おたくらギルドは関係なしよ?」

「そ、そうなんだけど。ドンと同じくらい凄いボスだって言われてるベリウスに会ってみたいんだ。」

ベリウスは、戦士の殿堂の統領の名前だ。
カロルは自分の故郷であるダングレストをまとめ、皆に信頼されているドンに憧れを抱いている。

「そうね、おたくらのお陰でココまで来れた、ってのもあるし、そんじゃ一緒に行きますか?」

「やった!!!」

カロルは大はしゃぎで、先頭を歩いて行く。

「チョット、ユーリ。」

カロルの後を、ラピード、エステル、リタ、レイヴン、ジュディスと続く中、最後尾に居たユーリを呼び止めた。

「私少し調べたい事があるから・・その・・後から行くわ。」

「素直に、『帝都と連絡をとってくる』って言えよ。」
「!!」

皆に聞こえないように、小声でユーリは私の嘘を見破る。

「そうよ。だから、闘技場の入り口で待ち合わせましょう。皆にもそう言っといて欲しいの。」

「了解。」

そして、皆が闘技場へ向かうところを見送り、私はある人物を探した。





数分歩き回り、やっと探していた人物を見つける。

「カウフマンさん、すみません少しよろしいでしょうか?」

私が探していたのは、先程別れたばかりのカウフマンである。

「あら、ロゼさんじゃないどうしたの?」

「実は、この手紙を帝都の市民街にある花屋さん『サブリナ』まで届けて欲しいんです。」

「わかったわ。詳しい話は聞かないのがビジネスよね。ココから帝都までだから結構な
額になるけど。」

「前金をいくらか払いますので、残りを着払いでお願いしたいんですが。」

「了解したわ。」

「有難う御座います。」

市民街にある、花屋『サブリナ』は私の隊が秘密裏に手紙のやり取りなどを行う時に使用する『何でも屋』である。
表の顔は『花屋』、またある時は『情報屋』、またある時は帝都で起きている不穏な動きなどを、教えてくれる『密偵屋』。
店主である『サブリナ』は私より2つ上のお姉さんで、昔帝国騎士団に所属していた経緯がある。帝国のやり方に疑問を思い、自分のやり方で帝都を守りたい、と今の仕事をしている。
私たちの隊はココのお得意様だ。
サブリナに私の手紙が届くと、ヴィンセントの部屋に19本の赤バラが届くようになっている。
19という数字は、我が隊が発足した時の私の年齢だ。
これを合図に、花を贈られるのも、買うのも不審に思われにくい、ヴィンセントが受け取りに行く事になっている。
残念ながら、異性から花束を貰う機会の少ない私に比べ、彼は一週間に2、3回は花束を貰っている。
その度に、私の執務室は花畑状態になる。
モテる男は違う・・・・と、言う事なのだろうか。

今回の手紙には、ユーリから聞いた魔導器関連の情報を書いた。
帝都の下町にある、水をくみ上げる井戸の役割をする『水道魔導器(アクエブラスティア)』の魔核が盗まれ、それを追っていたら、カプア・ノールの執政官『ラゴウ』に行き着き、さらに、そのラゴウは五大ギルド『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』と繋がっていた事。
集めた魔核を使って、天候を操る特殊魔導器を極秘裏に製造などを行っていた。
また、ラゴウと紅の絆傭兵団のボス、『バスボス』は次期皇帝候補ヨーデル殿下を誘拐し、監禁していた。

(接点の薄い二人が、何故手を組みヨーデル殿下を誘拐したのか。第一、帝国で騎士の下、厳重に守られていた殿下を誘拐する事が、ラゴウに可能だったのかしら・・・。)

行き着く先は、「誰か手引きした物が、騎士の中にいる。」という事。
だが、それがアレクセイかはまだ、証拠が少なすぎる。





私が闘技場の入り口に着いた頃には、統領に会いに行っていた仲間たちはすでにそこに居て、時間がかかると思っていた私はビックリし、理由を聞くと。
統領は「新月の晩にしか人にはあわない」と言われ、追い返されたと言う。
新月の晩までは、かなり時間がある。
どうするか考えたあげく、先にエステルの「砂漠に行く」用事を済ませる事に決めたらしい。
すでに太陽が傾き、夕刻が近い事から、今日はノードポリカに泊まり、明日の朝、砂漠に向かう事になった。

闘技場の中にある宿屋に泊まる事に決めた私たちは、荷物を置き、せっかく臨時収入が入ったという事で、酒場で盛大に夕食会と言う名の、飲み会を開く事に決めた。
日が沈み、店内は混雑していたが、何とか人数分の席を確保し席に着く。ちなみに、ラピードは宿屋の前でお留守番だ。
席順は、四角い長テーブルを挟み、右側奥より、レイヴン、ユーリ、カロル。
左奥より、ジュディス、私、エステル、リタと言う並びで座った。
メニューを独占したリタが、次々に料理を注文し、それにカロルが文句を言いながら、自分の食べたい物を注文している。

「私、酒場に来たの初めてです〜♪」

私の右横で、エステルが瞳をキラキラさせながら周りを見渡している。

「よ〜し!今日はおっさんの奢りだ〜♪」

「言ったな。代金今日の報酬から出さないぜ。」

「青年の意地悪〜。」

レイヴンとユーリのそんなやり取りを見て、エステルがくすくすと笑っている。

「お飲み物はどうされますか?」

という店員の声につかさずレイヴンが。

「ワインをボトル5本で!赤ね!!」

「私は、白ワイン2本。」

レイヴンに続いて、私も少し羽目を外そうと、いつも飲みなれている白ワインを注文する。

「えっ!?ロゼは未成年でしょ?お酒飲むの?」

私がお酒を頼んだ事に驚いたカロルの言葉に。

「そんなに私、幼く見えるのかしら。これでも24才なのよ、私。」

「「「えーーーー!?」」」

既に、私の年齢を知っているユーリ以外が、驚きの声を上げる。

「み・・・・見えないわ。」

「てっきり、同い年かと思っていました。」

「顔のつくりが幼いのね。私、いつも実年齢より上に見られるから羨ましいわ。」

リタ、エステル、ジュディスがそれぞれ感想を述べると。

「おっさんは薄々気付いていたわよ。」

「本当!?レイブン?」

自信満々に言い出すレイヴンに対し、疑いを込めたカロルの言葉が続く。

「ロゼちゃんには、10代では出せない色っぽい腰つきがあるな〜って♪」

「ドコ見てんだよ、おっさん。」

「サイテーね。レイヴン。」

私とユーリが、レイヴンに対し、冷たい目線を送ると。

「あら。ユーリだって時々ロゼの後ろ姿見つめている時があるわよね。」

ジュディスの爆弾発言に、レイヴンに向けていた冷めた目線を、そのままユーリに向ける。

「しかたないだろ。そんな体の線が丸わかりなパンツはいてる方が悪い!」

開き直ったユーリが、自分は何も悪くない、と主張してきた。
そしてそこにタイミングよく料理が運ばれてきた。
次々に運び込まれる料理に皆釘付けだ。

「それでは、ブレイブ・ヴェスペリアの今後を祝し、皆で・・・。」

「かんぱーい!!」

ギルドボス、としてカロルが乾杯の音頭をかって出たが、リタによってそれは阻まれた。
長期の船旅で、まともな料理を食べられなかった私達は、我先にと出された料理に食いついた。
先程の暴言を忘れ、私も久々のワインに酔いしれて、注がれるままに次々にボトルをあけていった。

一時間半後・・・。

「皆して、子供、子供って・・どうせ私は色気も何も無いわよっ!!!」

ボトルを3本空けたところで私は酔いが回り、日頃の鬱憤をはき散らかしていた。

「どうしたら、ジュディスみたいにナイスバディーになれるの?」

「それはね。愛する人に夜、ベッドの中で愛されれば手に入るわよ♪」

「ぶっ!!!」

ユーリがワインを吹き出す。
レイヴンは早々に酔いが回り、テーブルに突っ伏しており、話相手の居なかったユーリは、ワインを飲みながら私とジュディスの話を静かに聴いていたのだ。

「そっか・・・・いい恋をしろって事ね・・・。」

「えぇ、恋は女を大人に変えるのよ。」

「わかったわ!私今から恋人を作ってくる!!そして愛されてくるわ!!!」

いい案が閃いた。と思った私は、ガッツポーズを決めて豪快に席を立った。

「おい!待てっ!!お前何する気だ!?」

急に立ち上がり、移動しはじめた私にユーリが声をかける。
素面の仲間たちも、どうしたんだと私を振り返る。
が、今の私には何も聞こえ無い。
そしてそのまま移動し、カウンター席に一人座りお酒を飲んでいる、茶色見かかった短髪の男の肩を叩いた。

「チョットそこのお兄さん。私と一緒に恋の大海原に航海に出ない?」

とても酷い口説き文句を聞いて、皆が呆れていると・・・・。
私が声をかけた男がゆっくりと振り返り、私の顔を見上げてきた。

「喜んで、姫様。」

そのまま、肩を叩いた手とは逆の手を取り、甲に口付けをされる。
酔って頭の回らない状況ではあったが、顔と声とその仕草である人物が脳裏を過ぎる。

「も・・・・もしかしてヴィンス?」

肯定するように、もう一回口付けをされる。
思いがけない人物との再会に、私の酔いも静かに冷めていった。



第9話につづく・・・。


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