「その・・・・一緒にくるか?」 [ 3/20 ]


「宿屋のやつに事情説明したら、左側の一番奥の部屋使っていいってよ。」

ユーリは優しく微笑みながら、私に木札の付いた一つの鍵を手渡してきた。

「え?お金は?私盗まれて持ってないのに?」

「あ〜・・・・何かボロくてチョット泊めるにはいまいちだから、別に構わないってさ。」

左手で頭を掻き、視線は左上を向いて歯切れ悪くユーリは答えた。

(・・・・嘘だわ)

騎士の経験が・・・・いや、女の感がユーリが嘘を付いている事を見抜く。

「本当の事を言って。その・・・・ユーリが払って・・・くれたの?」

「馬鹿言うなよ。俺そんな金持ちに見えるか?俺だって切り詰めて旅をしてるんだ。そんな金ねーよ。」

「じゃあ、一緒にいた人?えっと・・・・30歳くらいの人。」

「違う。お前は何も気にせずに素直に受け取っておけ。そして早く休んでお父さんとお母さんのとこへ帰れ。」

宿屋の入り口近くにあるベンチに腰掛、私達二人はそんな押し問答を繰り返していた。
ユーリの足元には、左目に傷を負った、大きな犬が寄り添っていた。
面白い事に、その犬はキセルを銜え、背には短剣を背負っていた。
おそらく、ユーリの飼い犬なのだろう。

「私・・・・父も母もいないわ・・・・それに、私あなたより年上よ。子供扱いしないで。」
明らかにユーリは、私の事を家出中の迷子だと決めつめて話していた。

「は?17とか18じゃねーの?」

「し・・・・失礼よっ!!私今年で24歳よ!!!」

「はぁ!?嘘だろ!?3つ上?」

実年齢より若めに見られる事は、珍しい事ではなかったが、そこまで驚かなくてもいいんじゃないか、と言うくらいユーリは驚き、固まってしまった。

「24にもなってスリにあうなんてあり得ないだろ!?しかもあんな典型的な方法で!!久々に聞いたぞ!?」

「し・・・・仕方ないじゃない!!急いでココまで来てチョット疲れてたのよ!」

「どこの箱入り娘だよ・・・・どっかのお姫様と一緒か?」

「由緒正しい一般市民ですっっ!!!」

正しくは、由緒正しい貴族の出であるが、彼に本当の事を話せば、警戒されてしまう事は目に見えていた。

「市民って・・・・ロゼは帝都出身か?」

焦って口走ってしまった為か、あっさり帝都からきた事をバラしてしまった。

「しかも貴族様とかか?」

焦りだす私に、ユーリは追い討ちをかけるように『貴族』と言う言葉を出してきた。
その顔は探りを入れるような、とても意地悪な表情である。
どうする?
私の場合、下手に嘘をつくとボロが出るタイプだ。 
本当の事半分、嘘を半分に話しておけば何とか乗り越えられる!

「そうよ。私は帝都からココまで来たわ。ある人を探して・・・・。」

少し信憑性が出るように、表情を曇らせ、ゆっくりと話す。

「その人は独自にエアルクレーネの研究を行っていて、世界各地を探索しては調査結果を帝国に報告していたの。」

ココは嘘。

「私と彼は幼馴染で、お互いの家が近い事もあって、よく遊んでたの。それは大人になった今でも変わらなかった。」

残念ながら私にはそんな存在はいませんが・・・・。

「ある日、彼はエアルクレーネが暴走すると極めて高いエアル濃度になって、魔物が凶暴化する事に気付いたの。」

これは本当の話。

「それを騎士団の中でも一番偉い、親衛隊隊長様に報告したら相手にされなかったみたいで・・・・それで彼は真実を確かめると言って、帝都を出て行ってしまったの。」

これはまさに、今私がおかれている現状だ。

(うん。我ながら上手くいったかな?)

そして決め手は。

「実は、彼が帝都を離れてから間も無く、彼のお母様が倒れられて・・・・彼に会いたがっているの。それで私、彼を探してココまで来たの。」

完璧じゃないか?うん。辻褄はあってる。不自然なところはないはず。
話が終わり、しばらく間があいた後に、ユーリは静かにつぶやいた。

「そうか、大変だったんだな。」

嘘がバレてない!!
良かった、と言う安堵感と、彼を騙してしまった、と言う罪悪感を感じたが、何とかこの場は凌げそうだ。

「だからって、お前みたいな世間知らずが、うろついて無事でいられる程世界は優しく
ないぞ。」

「大丈夫よ。私これでも剣の腕は確かだから。」

そう言って、右手中指にはめられた指輪型の武醒魔導器(ボーディブラスティア)を見せた。
『武醒魔導器』とは、術や、技を繰り出す時に必要な魔導器で、騎士や傭兵など戦いを家業とする者には欠かせない物だ。

「なるほどね・・・・。それで、お金が無いままこれからどうするんだ?」

「そ・・・・それは・・・・。」

確かにその問題があった。できれば、ユーリと行動を共にし、彼らを探りながらエアルクレーネについて調べたいのが本音だ。
でも、口実が見つからない。

「俺の他にも、色々訳ありな仲間と一緒に行動してるんだが・・・・その・・・・一緒にくるか?」

「え?」

「あ〜・・・・その・・・・そう!!お前みたいな世間知らずは帰れと言っても帰らないのは、俺達の仲間の中にも同じようなやつがいるからわかるんだ。仲間の中にエアルクレについて調べているやつもいる。もしかしたら、会えるかもしれないだろ。その幼馴染に。」

内容を理解するまでじっとユーリの顔を見てしまっていた私に、居たたま
れなくなったのか「そんなに見るな。」と言うユーリの言葉で我に返った。まさか、向こうから同行を受け入れてくれるとは思わず、ビックリしてしまい呆然としてしまった。
だが、これは好都合。
断る理由など無い。

「い・・・・いいの?」

「取り合えず、うちのギルドのボスに確認してからだけど、きっといいって言うぜ。」

「ユーリ、ギルドに入っているの?」

「あぁ。ブレイブ・ヴェスペリアって言う、昨日新設したばかりのできたてほやほやのギルドだけどな。」

「さてと。」と彼は腰を上げ、ベンチから立ち上がった。

「今日のところは、素直に宿屋で休んどきな。明日はノードポロカまで船で長旅だからよ。」

(ノードポリカ!?)

その場所は、どんなに早い船でも4〜5日はかかってしまう距離にある、別の大陸にある街だ。

(ココで会わなければ、一生すれ違ってたかもしれないわね・・・・)

偶然の出会いに奇跡を感じつつ、私は素直に宿屋で休む事にした。

「おっと忘れてた。こいつはラピード。俺の相棒だ。」

足元にいた大きな犬の頭を撫でながら、ユーリは紹介してくれた。

「私はロゼよ。よろしくね、ラピード。」

ラピードは軽く「ワフッ」と吠え、返事を返してくれた。

「珍しいな・・ラピードが初対面からこんなに懐くなんて。」

「そうなの?」

私が顎の前に手の平を出すと、甘えるように頭を摺り寄せてきた。

「お前と俺は趣味が似てるのかもな。」

ラピードを見下ろしながら、ユーリは小さな声で呟く。

「何か言った?」

「いいや、な〜んも。」

「そう?」

「そんじゃ、俺はラピードと散歩してから休むから先に宿屋に行けって。」

「わかった。本当にありがとう、ユーリ。」

「あぁ、また明日な。」




こうして、私のユーリの
旅は始まった。



第4話につづく・・・・。



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