『ロゼは大きくなったら何になりたい?』 『父様みたいな騎士様になりたい!そして悪い人をやっつける!!』 『ははは、それは頼もしいな。でも、悪い人ってどんな人かな?』 『うんとね、人を傷つけたり、物を盗んだり、とにかく意地悪する人!』 『でも、それが大切な人を守るためだったりしたら?生きてゆくために食べ物を盗んでしまった人は?この人は悪い人かな?』 『・・・・父様難しい・・。』 『ははは、ごめんよ。父様はね、いつもロゼの見方だよ。ロゼが考え抜いて決めた事ならそれは正義にもなるし、悪にもなるんだ。よく考えて決めるんだよ。』 『はい!父様!!』 私がいくつの時だろう。とても幼き頃のように思える。 父様はとても大きくて、強くて、優しくて、皆に好かれていた・・・・と幼き記憶として残っている。父様に逢いたい・・。 逢いたいな・・・・・・・。 * (眩しい・・・) 窓から差し込む光で目が覚める。 上半身を軽く上げ、周りを見渡す。 (ここ・・・は?) 自分が寝ていたベッドの横にある、サイドテーブルが目に付く。 そこには、飲みほしたワインのビンが、何本も乱雑に置かれていた。 (あぁ・・・そうか。ココはヴィンスの部屋ね。) 偶然再会した、ヴィンセントの宿泊先に押し入り、部屋にあったワインを飲みに飲みまっくた事を思い出す。 (チョット飲みすぎた・・・かも・・・・・微妙に頭が痛い・・・・・。) 状況が確認でき、安心感から、再度眠気が襲ってくる。 (もう一眠り・・・。) 枕に頭を沈め、意識が消えかけた時。 「いい加減、起きたほうがいいですよ。」 軽く肩を揺すられ、起こされる。 「い・・今何時?」 「7時半を少し回ったとこです。」 上体をゆっくり起こし、私を起こした犯人を見上げる。 騎士団指定の軽装を身に着けたヴィンセントが、軽く睨むように私を見下ろしていた。 「まったく。ホントに姫様は見た目に似合わず、酒癖が悪い。体調は如何ですか?」 「少し頭が痛いわ。」 「じゃ、これ飲んで下さい。後、新しい服を用意させましたから、シャワー浴びて着替えて下さいね。古い服はミレイナに取りに来させますから、脱衣所に置いといて下さ い。」 水の入ったコップと、二日酔い用の薬が入った紙袋を素直に受け取り、それを飲み干す。 ミレイナはヴィンセントがまとめる小隊の副官を勤める、小柄の可愛らしい少女だ。 副官はどうしても女がいい、と言うヴィンセントの強い要望で、他の隊に配属されていたところを引き抜いてきた。 ある意味不運な少女である。 「何から、何までありがとう・・・。」 「じゃ、俺行きますね。姫様も早く彼らと合流した方がいいですよ。」 「早いのね。」 先程ヴィンセントは、今の時刻が、朝の7時半だと言っていた。騎士は朝が早いといえど、集合には少し早いように感じた。 「フレン隊は真面目が売りですから。」 「ふふ、大変そうね。」 「いいえ、こうして偶然にも姫様と再会できて嬉しいですよ。本当はヘリオードに行きたかったんです。姫様はダングレストに向かわれましたから会えるとしたら、そっちでしょ?でもエリーとのくじ引きに負けまして。これは運命ですかね。」 「そうね。私も会えて良かったわ。」 「俺達は明日には帝都に戻ります。支援といっても何も仕事なかったんですが・・・・取り合えず、誰かさんが俺達を帝都に置いときたくなかったんですかね?」 「そうね。私たちの動きを向こうも探っているのかも・・・。」 「お気を付けを。」 「そっちこそ。」 私達は、互いの健闘を祈り、別れた。 ヴィンセントが部屋を出て行った後、すぐに身支度を整え、ユーリ達が宿泊している宿屋へ向かった。 * 「あっ!ロゼだ!!」 宿屋の前まで来ると、丁度中から出てきたカロルと鉢合わせた。 「連絡も無しに、勝手な行動してごめんなさい。少し飲み過ぎて、昨日は彼の部屋に泊まったの。」 その後、続々と中から出て来た仲間達に、昨晩の話をする。 「おっさんショック!!ロゼちゃんは純真だと思ってたのに、朝帰りなんてっ!!!」 大げさなリアクションをとるレイヴン。 「ち、違うわよ!彼とはそんな関係じゃ・・・」 「あら、どんな関係なのかしら?」 慌てて訂正を入れると、楽しそうに微笑みながらジュディスが質問をしてきた。 「ど・・・どんなって。」 「恋人・・・ですか?」 「只の幼馴染」そう答えようとしたら、横からエステルが横槍を入れてきた。 「ち、違うわよっ!」 「どーだっていいだろ。幼馴染なんだろ、それより早く出発しようぜ。」 エステルの言葉に否定し、訂正をしようと思ったら、離れた位置からユーリが声をかけてきた。 「そうだね、早く出発しよう!」 ユーリの言葉に、カロルが同意し一同は砂漠に向けて街を出ることにした。 「ふふ、一番気になっているのは誰かしら。」 「何だよジュディー。」 「何でもないわ。」 そんなユーリとジュディスの会話を他所に、私は今後、これ以上行動をあやしまれないよう自重する事を心に決めた。 * 港街に出ると、二人の男の喧嘩に遭遇した。 刃物をチラつかせ、緊迫した雰囲気にどうしたものかと考えていると、気弱そうな一人の男がその二人に近づき、喧嘩の仲裁に入った。 が、余計二人の気を高ぶらせてしまい、収拾がつかなくなってしまった。 「おいおい、ココは街中だそ。喧嘩したければ、丁度闘技場があるんだ、そこで喧嘩なり、決闘なりすればいいんじゃねーか。」 そこに、騒動を沈めようと、ユーリが二人に声をかける。 怒気が込められたユーリの言葉は、予想以上に威力を発揮し、二人はそそくさと姿を消した。 「あ、ありがとうございます。」 喧嘩の仲裁に入ったつもりが、結果としてユーリに助けられる形となった気弱な男が礼を述べる。 「あれ、もしかしてあなたは『遺構の門(ルーインズゲート)の首領、ラーギィさん?」 確認するように、カロルが気弱な男に尋ねる。 「そうです。私はギルド遺構の門のラーギィです。」 「遺構の門?」 二人の会話に、エステルが質問をする。 「遺構の門は、アスピオの帝国魔導器研究所と共同で魔導器の発掘を専門に行う、発掘 中心のギルドよ。」 エステルの質問に、リタが答える。 アスピオの研究員であったリタは、彼らと関係が深いのかもしれない。 「あ、あの。助けて頂いてあれなんですが、皆さんに・・・・そのお願いしたい事がありまして、お話を聞いて頂けませんでしょうか?」 下がりに下がっていた眉を、さらに下げ、ラーギィは様子を伺いながら、依頼をしてきた。 それは、このノードポリカを治める、戦士の殿堂を乗っ取ろうとする男がいるので、闘技場に出場してやっつけて欲しい・・・・と言う内容であった。 * 状況がいまいち飲み込めぬまま、私達は闘技場へと戻って来た。 五大ギルドの危機とあってはほってはおけない、と言うカロルの言葉に皆が同意したからだ。 戦士の殿堂を乗っ取ろうとする問題の男は、闘技場のチャンピオンを倒し、無敗のチャンピオンとして、現在君臨していると言う。 このチャンピオンを倒す為に、ユーリが闘技大会に出場する事になった。 (あれ、確かチャンピオンって・・・・。) 昨日のヴィンセンから聞いた話を思い出す。 フレンと言う騎士が現チャンピオンだと言っていた。 (ユーリに伝えるべきかしら・・・。) 迷った結果、ユーリには現チャンピオンは騎士の人間だ、と伝えた。 少し困惑した表情をみせたが、ユーリは相手は誰でも関係ない、と意気揚々と登録カウンターへと進んで行った。 ユーリを見送った私達は、彼の戦いを応援する為、観覧席へと移動した。 * 「フレン!?」 ユーリは無敵の強さを発揮し、順調に勝ち進み決勝戦へと駒を進めた。 そして現れた、無敗のチャンピオンを見て、エステルが驚きの声を上げる。 「エステルの知合い?」 他の仲間たちの様子を見ても、フレンと言う騎士を皆知っているようだった。 「はい。彼は帝国騎士で、ユーリの幼馴染なんです。」 そう言えば、下町出身だと聞いたような・・・。 思わぬ再会に、ユーリも少し困惑しているようだった。 「これってどう言うことかしら。」 リタが眉をひそめ、独り言のように呟く。 「何故、騎士が闘技大会に参加してるの?確か、ラーギィは戦士の殿堂を乗っ取ろうとしてるって言っていたわよね。」 「はめられた・・・・のかもよ。俺達。」 「まさか、人当たりがいいので有名なラーギィさんが、なんで?」 リタの疑問にレイヴンがラーギィに、騙されたのではないかと言う。 だが、カロルは争い事を好まず、穏やかで人を騙すような人ではない、とラーギィをかばった。 (どう言う事?) ラーギィの話をまとめると、帝国騎士であるフレンが闘技場のチャンピオンを倒し、戦士の殿堂を乗っ取ろうとしている、と言う事になる。 もっと要略すると、帝国がギルド組織に介入している、と言う事だ。 (これも全てアレクセイの企みなの?) と、そこに大きな爆発音と供に、一人の男が二人の戦いの間に入って来た。 「ユーリ、ユーリ!!俺と殺しあおうぜっ!!!」 全体にピンクの髪色に、前髪だけ金髪という奇抜な髪型のその男は、ユーリの名前を連発しながら右手に持った剣を振り回している。 一目見ただけで、彼の感覚が普通でない事がわかる。 「うわ!またあの男だよ!生きてたんだ!?」 「ユーリが危ないです!!行きましょう!」 どうやら、エステル、リタ、カロルは奇抜な彼と面識があるらしい。 観覧席の柵を飛び越えて、私達はユーリの元へ駆け寄る。 「ザギ!いいかげんにしろよ!!お前にかまっている暇はねーんだよ!!」 奇抜な男、ザギの攻撃を交わしながらユーリが怒気を含んだ言葉で牽制する。 「ククク、冷たい事を言うなよ。お前と殺しあう為に、俺は力をつけてきたんだからよ!」 ザギが左腕を空へと掲げる。 その腕には、あやしげな光を放つ魔導器が付けられていた。 そして、その魔導器から光が放たれ、観覧席へと向かって行った。 人々はそれに驚き、我先にと逃げ惑う。 光は壁にぶつかると、爆発し、壁に大きな穴をあけた。 「まずい、観客を非難させないと!」 空色の甲冑を身にまとった、金髪の青年、フレンは自分の隊を呼び、観客を安全な所へ非難させるよう指示を出した。 (確かにとっさの判断力はあるみたいだから、優秀なのね。彼。) フレンの様子を見て、観客への安全は確保されたと判断した私は、ユーリの元にかけより彼の判断を仰ぐ事にした。 「取り合えず、コイツをどうにかしないとな。」 「気を付けて!奴の腕に巻かれてる魔導器、魔術を吸収するわよ!!」 リタの言葉に皆が眉をひそめる。 「そうなると、物理攻撃しか通じないって事!?」 「ですが、あの魔導器からの連続攻撃は防ぎようがありません!!」 レイヴンとエステルの言葉に、私はある作戦を閃く。 「魔術を吸収すると言っても、無限では無いはずよ。きっと限界があるはず・・・・。試してみる価値はあるかもしれない!皆聞いて、リタとレイヴンで魔術による集中攻撃を仕掛けて、そしてあの魔導器に魔術を吸収させて!」 「どう言う事だ?」 「吸収できる容量を超えれば、あの魔導器を壊せるかもしれない!そうすれば戦いが楽になるはずよ。」 「なるほど。で、俺達は?」 「リタとレイヴンの援護をしつつ、破壊次第攻撃に転じる!そしたら、リタとレイヴン が私達の援護を!エステルとカロルは後方支援を!」 「相変わらず、的確な指示で関心するぜ。」 「お褒め頂光栄ですわ。」 苦戦したものの、私の読みは当り、ザギの魔導器は一定の魔術を吸収した後に壊れた。 このタイミングを逃さず、私がザギの懐に入り隙を作る。 そこへ、ユーリが止めの一撃を決め、ザギの動きを止める事に成功した。 「ククク、ユーリ・・・・やはりお前は強いな。だがまだだ・・まだ俺は戦える・・・ハハハ、ハーハハ!!」 ふらつく足元を奮い立たせ、ザギは高らかに笑いだす。 「な、何なのこの男。」 私は異様な光景に、恐怖を感じた。 「平たく言えば、ユーリのストーカーよ。」 リタは呆れたように呟く。 「へ〜・・・。」 「そんな目で俺を見るな!俺は被害者だっ!!」 つい、ユーリに冷たい目線を送ってしまった私。 「ク・・・あぁああああ!」 急に、魔導器の付いた左腕を押さえて、苦しみだしたザギ。 「何!?どうしたの?」 「魔導器が暴走しかけているのかも!!」 「何だって!?」 カロル、リタ、レイヴンがそれぞれ話終わると同時に、ザギの魔導器が強く光り、いくつもの放射線状の光が放たれた。 それは壁や、床、そして見世物用の魔物達を閉じ込めていた結界魔導器にあたり、次々と破壊してゆく。 「やばいよ!魔物が街へ逃げて行くよ!!」 逃げ出す魔物を指差しながら、カロルが皆に声をかける。 「皆!なんとしても魔物を街に出すな!!」 そこに、大柄な男が何人もの男達を引き連れて、闘技場の中に入って来た。 「ナッツさん達です!」 騎士達と供に、観客の避難を先導していた戦士の殿堂のメンバーが戻って来たようだ。 辺りは、多くの魔物達が徘徊する事でできる土煙によって、視界が悪くなっていた。 「きゃっ!」 「チョっ待ちなさいよ!」 エステルの悲鳴の後に、リタの怒鳴り声が聞こえた。 「どうしたの?」 二人の側に駆け寄る。 「ラーギィよ!彼がエステルから『紅の小箱』を盗んで行ったの!!」 リタが逃げて行ったラーギィの後ろ姿を追って、走って行ってしまった。 「ラピード!」 すぐに、ユーリがラピードに合図をおくり、リタの後ろをついて行かせる。 「私達も追いかけましょう!」 闘技場を出て、街の出口に向かうとリタが一人、息を整えながら私達を待っていた。 「ラピードは?」 「ラーギィを追って街の外に出て行ったわ。」 「よし、俺達も追うぞ。」 こうして、私達は色々な事件に巻き込まれながら、砂漠へと向かった。 第11話につづく・・・・ |