「ユーリはヴィンスに似てるんだわ。」 [ 9/20 ]


「もしかして、探してました幼馴染さんですか?」

状況が理解出来ず、呆然と立ち尽くしていた私に、遠慮がちにエステルが声をかけてきた。

「ち・・・・違うっ」と咄嗟に言ってしまった後に、そういう事にしとけばよかった、という考えが過ぎった。
ユーリ以外は、まだ私が幼馴染を探して旅をしていると思っているはずだから。

「ち・・違う幼馴染よ。」

混乱し、悩んだ挙句、こんな受け答えしか出てこなかった。

「これは可愛らしい姫君。あなたの様な美しい方にお会いでき、この夜の出会いに奇跡を感じます。」

ゲンナリと、自分の嘘の下手さに落ち込んでいると、先程まで人の手を握っていた男が、今度はエステルの手を握って、甘い言葉を囁いている。

「チョット何なのよ!あんたっ。」

そんなヴィンセントを警戒して、リタが間に割って入る。

「これは、また可愛らしい姫君だ。」

そう言ってヴィンセントはごく自然にリタに微笑みかける。

「!!」

と、意外な事にその微笑にリタの顔が赤くなった。

(何やってんのよっ!?)

私が慌ててヴィンセントの腕を掴み、引き寄せる。

「いいから、こっち来なさいっ!!」

そしてそのまま店を出た。

「素敵な方でしたね。」

ポーとしながらエステルが上の空で呟く。

「そ・・・そお?」

「リタ・・・・顔赤いよ。」

「うっさい!!」

「いたっ!!」

カロルの突っ込みにリタが拳骨を食らわす。

「もしかしたら恋人だったのかもしれないわよ。」

「何で、俺に言うんだよ・・・。」

「ふふふ。どうしてかしらね。」

ユーリは、ジュディスの仮説を聞いて、正直ざわめく自分の心に戸惑っていた。





「我々は今、アレクセイ閣下の命令でフレン隊の支援に来ている。」

店を出た私達は、人気のない所を探し、港とは反対側の岸辺に来た。

「フレン隊?」

「フレン・シーフォって知らないか?下町育ちの男で、最近小隊長から昇格しやがった奴。」

居た様な気もするが、正直小隊の一つ一つまで、頭の中に入ってはいない。

「それにしても何故騎士が、ギルドが治めるノードポリカに?」

「さぁ。フレン隊はアレクセイに言われるままに動く、駒の様な部隊だ。裏に奴がいる事は確かだが・・・・他に、あの派手派手した鳥肌の立つ部隊、キュモール隊もこの大陸に来てるぜ。」

本名『アレクサンダー・フォン・キュモール』。ザーフィアスの貴族の出で、家柄により帝国騎士団に隊長の地位を貰うが、実力が伴わず、形だけの隊長として有名である。
隊のカラーが『紫』であり、無駄にバラを振りまくなど、無駄な派手さでも有名である。

「キュモールはカドスの喉笛を抜けて、砂漠に向かうみたいだった。フレンは闘技場に出場してチャンピオンとかになってるし、何だかよくわからない状況だ。」

「どう言う事?」

「それを探ろうと、まぁ頑張ってはいるが、優秀なんだろ、なかなか尻尾を掴ませない。」

ヴィンセントは「降参。」と、呆けて両手を肩の高さまで上げて見せた。

「ココにはヴィンスの小隊だけ?」

「あぁ、エリオットはシュヴァーン隊の支援でヘリオードに行かされた。帝都に残っている隊は、参謀長の隊だけですよ。ちなみに、姫様は体調不良で療養中って事になってます。」

「そう・・・・色々迷惑をかけているわよね。」

「いいえ。俺が出した提案ですし、無事に合流されていた様で安心しました。」

そういって、ヴィンセントは優しく私の頭を撫でた。
そこでふと、ある事に気がつく。

(ユーリはヴィンスに似てるんだわ。)

背格好などの見た目ではなく、彼らから感じる雰囲気が似てると思った。

(だから、ユーリといると安心するのかしら。)

そんな事を考え、ふと視線を船着場へと向けると、見覚えのある二人が空を眺めているのが見えた。





「ロゼ、見つかりました?」

一人船着場に佇むユーリを見つけ、エステルが声をかけた。

「いや、どこにもいないな。」

「幼馴染さんと一緒ですから、心配はいらないと思いますよ?」

「そうだな・・・・。」

視線を夜空へ向けたままユーリは答える。
エステルも一緒にそのまま夜空を眺めた。

「あ!見てくださいユーリ。『凛々の明星』ですよ!」

夜空で一番輝く、星を指差しエステルがユーリの方へ振り向く。

「あれが俺達ギルドの名前の星か。」

『凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)』。
カロルと結成した時は、『勇気凛々胸いっぱい団』というネーミングだったが、エステルに即効駄目出しを受け、今の名前に落ち着いた。

「凛々の明星には伝承があって、世界に災いが降りかかった時、二人の兄妹が現れてその災いから世界を救ったんです。その後兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守り、妹は大地に残り満月の子として人々を導いた。と。」

エステルは城で読んだ本を思い出しながら、ゆっくりと言葉をつむいでゆく。

「大層な名前を貰っちまったな。」

夜空に向いていた目線を、エステルへ向けながらユーリは呟く。
そこで二人の目線が合い、見つめ合うような形になる。

「ユーリにとって、一番星は誰ですか?」

「ん?」

「!?な・・・・なんでもないです!忘れて下さい!」

無意識に呟いてしまった自分の言葉に驚き、エステルは凄い勢いで両手を前に突き出し左右に振っている。

「そ、それでは私は先に宿屋に帰ってますね!ユーリはまだロゼを探すんです?」

ユーリは少し考える素振を見せたが、すぐに自分も宿屋に戻ると伝えた。





「いい感じじゃないですか。あの二人。」

船着場で見つめ合う、ユーリとエステルの様子を見ながらヴィンセントが呟く。

「そ・・・そお?」

並ぶ二人を見た時、複雑な感情が流れ、ヴィンセントの言葉に同意する事が出来なかった。

「おや、やきもちですか?」

「ち、違うわよ!そ、それより!酔いが醒めたわ!飲みなおすわよ!!」

「これ以上はやめといた方がいいですよ〜。」

「いいから付き合いなさい!隊長命令よ!!」

「はいはい。」

私はそのままヴィンセントが泊まっている、部屋に押し入り深夜近くまで飲み倒して、意識を失った。





一番星と聞かれて、一番初めに浮かんだ顔は、ロゼだった。
最初彼女を見つけた時、小さな少女が困っているようだったので、話かけた・・・・ただそれだけだった。
彼女は酷く落ち込んでいて今にも泣き出しそうだった。
それを見た時、何故だかほってはおけなかった。気付くと体か勝手に動き、彼女の為に部屋を譲ったり、財布を捜しに行ったり・・・・。
ただ、彼女の喜ぶ顔が見たいと思った。
彼女の経緯を聞いた時も、力になれないか、そう思った。
後にそれが嘘だったとしても、後悔し、涙を流す彼女を見て、傍に・・・・・・居て欲しいと思った。
こんな感情は初めてだった。
気付くと、あの緋色の髪を目で追ってしまう。
この感情を『恋』と呼ぶものなら、自分は相当恋に溺れているのかもしれない。
今も現に、幼馴染だという男と姿を消してしまった彼女を探してしまう。

(相当ヤバいな・・俺。)

彼女のドコが好きか、と聞かれれば正直思いつかない。
歳の割には幼いし、ドジだし、嘘が下手だし、人をからかって遊ぶし。

(ただ・・・。)

彼女が傍にいると安心した。
儚いようでいて、時々見せる勝気なトコがいいのかもしれない。


(俺も、まだまだだな。)

そんな事を思いながら、ユーリは宿屋へと向かう。


愛しい彼女が自分の所に戻ってくる事を思って。



第10話につづく・・・・。


[*prev] [next#]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -