「もしかして、探してました幼馴染さんですか?」 状況が理解出来ず、呆然と立ち尽くしていた私に、遠慮がちにエステルが声をかけてきた。 「ち・・・・違うっ」と咄嗟に言ってしまった後に、そういう事にしとけばよかった、という考えが過ぎった。 ユーリ以外は、まだ私が幼馴染を探して旅をしていると思っているはずだから。 「ち・・違う幼馴染よ。」 混乱し、悩んだ挙句、こんな受け答えしか出てこなかった。 「これは可愛らしい姫君。あなたの様な美しい方にお会いでき、この夜の出会いに奇跡を感じます。」 ゲンナリと、自分の嘘の下手さに落ち込んでいると、先程まで人の手を握っていた男が、今度はエステルの手を握って、甘い言葉を囁いている。 「チョット何なのよ!あんたっ。」 そんなヴィンセントを警戒して、リタが間に割って入る。 「これは、また可愛らしい姫君だ。」 そう言ってヴィンセントはごく自然にリタに微笑みかける。 「!!」 と、意外な事にその微笑にリタの顔が赤くなった。 (何やってんのよっ!?) 私が慌ててヴィンセントの腕を掴み、引き寄せる。 「いいから、こっち来なさいっ!!」 そしてそのまま店を出た。 「素敵な方でしたね。」 ポーとしながらエステルが上の空で呟く。 「そ・・・そお?」 「リタ・・・・顔赤いよ。」 「うっさい!!」 「いたっ!!」 カロルの突っ込みにリタが拳骨を食らわす。 「もしかしたら恋人だったのかもしれないわよ。」 「何で、俺に言うんだよ・・・。」 「ふふふ。どうしてかしらね。」 ユーリは、ジュディスの仮説を聞いて、正直ざわめく自分の心に戸惑っていた。 * 「我々は今、アレクセイ閣下の命令でフレン隊の支援に来ている。」 店を出た私達は、人気のない所を探し、港とは反対側の岸辺に来た。 「フレン隊?」 「フレン・シーフォって知らないか?下町育ちの男で、最近小隊長から昇格しやがった奴。」 居た様な気もするが、正直小隊の一つ一つまで、頭の中に入ってはいない。 「それにしても何故騎士が、ギルドが治めるノードポリカに?」 「さぁ。フレン隊はアレクセイに言われるままに動く、駒の様な部隊だ。裏に奴がいる事は確かだが・・・・他に、あの派手派手した鳥肌の立つ部隊、キュモール隊もこの大陸に来てるぜ。」 本名『アレクサンダー・フォン・キュモール』。ザーフィアスの貴族の出で、家柄により帝国騎士団に隊長の地位を貰うが、実力が伴わず、形だけの隊長として有名である。 隊のカラーが『紫』であり、無駄にバラを振りまくなど、無駄な派手さでも有名である。 「キュモールはカドスの喉笛を抜けて、砂漠に向かうみたいだった。フレンは闘技場に出場してチャンピオンとかになってるし、何だかよくわからない状況だ。」 「どう言う事?」 「それを探ろうと、まぁ頑張ってはいるが、優秀なんだろ、なかなか尻尾を掴ませない。」 ヴィンセントは「降参。」と、呆けて両手を肩の高さまで上げて見せた。 「ココにはヴィンスの小隊だけ?」 「あぁ、エリオットはシュヴァーン隊の支援でヘリオードに行かされた。帝都に残っている隊は、参謀長の隊だけですよ。ちなみに、姫様は体調不良で療養中って事になってます。」 「そう・・・・色々迷惑をかけているわよね。」 「いいえ。俺が出した提案ですし、無事に合流されていた様で安心しました。」 そういって、ヴィンセントは優しく私の頭を撫でた。 そこでふと、ある事に気がつく。 (ユーリはヴィンスに似てるんだわ。) 背格好などの見た目ではなく、彼らから感じる雰囲気が似てると思った。 (だから、ユーリといると安心するのかしら。) そんな事を考え、ふと視線を船着場へと向けると、見覚えのある二人が空を眺めているのが見えた。 * 「ロゼ、見つかりました?」 一人船着場に佇むユーリを見つけ、エステルが声をかけた。 「いや、どこにもいないな。」 「幼馴染さんと一緒ですから、心配はいらないと思いますよ?」 「そうだな・・・・。」 視線を夜空へ向けたままユーリは答える。 エステルも一緒にそのまま夜空を眺めた。 「あ!見てくださいユーリ。『凛々の明星』ですよ!」 夜空で一番輝く、星を指差しエステルがユーリの方へ振り向く。 「あれが俺達ギルドの名前の星か。」 『凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)』。 カロルと結成した時は、『勇気凛々胸いっぱい団』というネーミングだったが、エステルに即効駄目出しを受け、今の名前に落ち着いた。 「凛々の明星には伝承があって、世界に災いが降りかかった時、二人の兄妹が現れてその災いから世界を救ったんです。その後兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守り、妹は大地に残り満月の子として人々を導いた。と。」 エステルは城で読んだ本を思い出しながら、ゆっくりと言葉をつむいでゆく。 「大層な名前を貰っちまったな。」 夜空に向いていた目線を、エステルへ向けながらユーリは呟く。 そこで二人の目線が合い、見つめ合うような形になる。 「ユーリにとって、一番星は誰ですか?」 「ん?」 「!?な・・・・なんでもないです!忘れて下さい!」 無意識に呟いてしまった自分の言葉に驚き、エステルは凄い勢いで両手を前に突き出し左右に振っている。 「そ、それでは私は先に宿屋に帰ってますね!ユーリはまだロゼを探すんです?」 ユーリは少し考える素振を見せたが、すぐに自分も宿屋に戻ると伝えた。 * 「いい感じじゃないですか。あの二人。」 船着場で見つめ合う、ユーリとエステルの様子を見ながらヴィンセントが呟く。 「そ・・・そお?」 並ぶ二人を見た時、複雑な感情が流れ、ヴィンセントの言葉に同意する事が出来なかった。 「おや、やきもちですか?」 「ち、違うわよ!そ、それより!酔いが醒めたわ!飲みなおすわよ!!」 「これ以上はやめといた方がいいですよ〜。」 「いいから付き合いなさい!隊長命令よ!!」 「はいはい。」 私はそのままヴィンセントが泊まっている、部屋に押し入り深夜近くまで飲み倒して、意識を失った。 * 一番星と聞かれて、一番初めに浮かんだ顔は、ロゼだった。 最初彼女を見つけた時、小さな少女が困っているようだったので、話かけた・・・・ただそれだけだった。 彼女は酷く落ち込んでいて今にも泣き出しそうだった。 それを見た時、何故だかほってはおけなかった。気付くと体か勝手に動き、彼女の為に部屋を譲ったり、財布を捜しに行ったり・・・・。 ただ、彼女の喜ぶ顔が見たいと思った。 彼女の経緯を聞いた時も、力になれないか、そう思った。 後にそれが嘘だったとしても、後悔し、涙を流す彼女を見て、傍に・・・・・・居て欲しいと思った。 こんな感情は初めてだった。 気付くと、あの緋色の髪を目で追ってしまう。 この感情を『恋』と呼ぶものなら、自分は相当恋に溺れているのかもしれない。 今も現に、幼馴染だという男と姿を消してしまった彼女を探してしまう。 (相当ヤバいな・・俺。) 彼女のドコが好きか、と聞かれれば正直思いつかない。 歳の割には幼いし、ドジだし、嘘が下手だし、人をからかって遊ぶし。 (ただ・・・。) 彼女が傍にいると安心した。 儚いようでいて、時々見せる勝気なトコがいいのかもしれない。 (俺も、まだまだだな。) そんな事を思いながら、ユーリは宿屋へと向かう。 愛しい彼女が自分の所に戻ってくる事を思って。 第10話につづく・・・・。 |