アウトサイダー・ロマンス

「何階?」
「402、4階だな」

オートロックマンションじゃなくて安心した。楽々とエレベーターに乗り込むと4階のボタンをタップする。
21時12分。2人きりのエレベーターの扉が閉まる。壁にもたれ掛かり、階数表示が上がっていくのをぼんやりと眺めていた。すると突然視界を塞がれる。ジバンシーの上品な光沢のあるスーツの布地。見上げると見慣れないタカシの暗い笑みがあった。

「おれがいなかったあの男とキスでもしながらこのエレベーターを上がっていたんだな」
「・・・その話はなしよ」

丁度よく4階にエレベーターが止まる。タカシの脇をすり抜けてエレベーターを逃げるように降りた。
その話は車の中で、みんなの前で済ませたつもりだ。もうこれ以上話したくなかった。心の柔らかい所にこれ以上触れないで。

「他の男には躊躇いなく触れるしキスも出来る、セックスも出来る。どうしようもないあばずれだな」
「そうよ、知らなかったとは言わせないからね」
「ああ知ってるさ、お前は昔からそういう女だ」

つかつかとヒールを鳴らしながら廊下を進む。402号室の前で立ち止まった。
タカシが後から追いついてきて鍵穴に鍵を差し込んだ。それと同時に手首を思い切り掴まれる。振り払おうとしたが、思い切り開けられた玄関扉の中に引き込まれたせいで怯んでしまった。
引き込まれた先の玄関の床に押し倒される。頭は庇ってもらったけれど、背中は痛い。目をつぶった。

「どうしようもない女でいい、それでもアサヒが好きだ。でも少しだけでいいから、おれのことも見てくれよ、いつも視線を逸らしてばかりで・・・」
「っな、なんだお前ら!」

タカシの突然の告白を目を白黒させながら聞いていた。しかしそれも突然の怒号で邪魔される。驚いて二人して顔を上げた。完全に間抜けだっただろう。
しかしさすがの相手も驚愕の間抜け面だった。そこにいたのはタツヤくん。と、口にガムテープを貼られて両手両足を縛られたマコト。こいつらはここでなにをしてるんだ?ここにいる全員が互いに思っただろう。
しかし次の瞬間、ナイフを手にしたタツヤくんが一直線に走り寄って来た。タカシが素早くわたしの上からどくと低い体制のまま足払いをしかける。しかしタツヤくんはよろめいたが転びはしなかった。
今度こそ立ち上がったタカシがファイティングポーズで構えた。けれどわたしも負けちゃいられない。うっかり先ほど盗んできたボトルが入れっぱなしのバッグを思い切りスイングして錯乱している彼の脳天にヒットさせた。彼は壁に思い切り激突して動かなくはなった。慌てて駆け寄り生死を確認する。うーん、とりあえずは生きているようだった。だったら頭を打ったついでにさっき見たこと忘れてくれないかなあ。
タカシを見上げるとさすがにぎょっとしたような顔でわたしをみていた。そりゃそうだ。普段ならウイスキーボトルをフルスイングで人の頭にヒットさせるようなことしない。虫も殺せぬような女なのだ。たぶん火事場の馬鹿力みたいなものだろう。
バッグの中のボトルがひび割れてないかも確認しながらそう思うのだった。


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