愛は人を衰退させる

「おーい、タカシ。お前相原と寝たのか」

花見の酒で顔を真っ赤にし、ますます猿らしくなったサルがそうタカシの地雷を踏み抜いた。桜の陽気の下、どことなくあたたかだった周りの空気も一気に氷点下。おれは思わず身震いした。
タカシは平常心を装ってはいるがその心の中ではおれを責めているに違いない。このサルをどうにか黙らせろってな。おれはどちらの言葉も聞かなかった振りをして獺祭のボトルから酒を注いで飲んだ。せっかくのうまい酒なのに味がしなかったが。
するとおれを使うのを諦めたタカシはため息のように呟く。

「・・・そういう関係じゃない」
「ほー、でも好きなんだろ」

もうやめてやれよ、でもいつも冷徹な王が追い詰められるのは少し面白かったので黙って見ていた。いい気味だ。そしてアサヒがタカシに持たせた枝豆をつまむ。うまい。あいつは庶民の出であることを隠せない女王なのだ。ハイブランドで身を固めていようが特売にときめくような女。

「クイーンはクイーンだ。別に、それ以上でもそれ以下でも」
「おいおいキングとクイーンの話じゃなくてタカシとアサヒの話してんだぜ。なあ、ホントにやってないのか。よく我慢できるな、あいつ結構いい身体してるのに、なあマコト」

しかし面白がってみていたら突然こちらに飛び火した。タカシにじとりと睨まれる。待ってくれ、おれとアサヒの関係はアニメやドラマのようなおいしい関係ではないのだ。慌てて火消しをする。

「あいつと風呂はいってたのなんてせいぜい小学一年生くらいだぞ、身体つきなんて知るか」

小さい頃はおふくろが外にも働きに出ていたので時折アサヒの家に預けられていたのだ。だけどそれも小さい頃の話。
しかしサルは本気で羨ましがるようにおれをみた。

「あー!風呂だってよ!いいよな!あんないい子が幼馴染なんて!」
「よくねえよ、アサヒのやつガサツだし人のものは勝手にとるし本当は瓶底メガネだし大人になっても寝相悪いぞ、何度蹴られ殴られたか・・・」

なのでその夢を壊してやる。あいつ外面がいいんだ。しかしふたりは驚いたようにおれを見ていた。なんだよ。サルが呆然としつつも口を開いた。

「お前の方が相原と寝てたのか」

しまった。ついとんでもないことを言ってしまったようだ。別に、寝ると言ってもやましいことは無い。添い寝だ。子どもを寝かしつけるだけ。それだけなのだ。
そう慌てて早口で弁明した。別におれはアサヒのことなんか微塵も好きじゃないし親友の女を寝取る趣味もないんだ。信じてくれ!
するとタカシが冷ややかな目でおれを見ながら言った。

「まあお前がなんと言おうが、あいつがクイーンである限りあいつはおれの横にいるがな」

うわ、こいついつになく大人気ない!呆れてその言葉も言えない中、サルだけがメロドラマみたいだと大声で笑って楽しそうだった。


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