君は無慈悲な蒼き女王

ある夜のこと、礼にいにメトロポリタンホテルにあるバーに呼び出され行ってみれば上機嫌に酔っ払ったふたりの幼馴染が待っていた。
池袋署の署長でありエリート中のエリート、横山 礼一郎と片や池袋のグレーゾーンを統治する女王、相原 旭。肩書きこそ真逆で敵対していたがそれさえなければ二人はどこにでもいる仲良しの幼馴染だった。

「たまたま飲んでたら礼にいに会ってね、マコトも呼ぼうって」

それに肩書きこそ真逆でも収入は同じくらいのようだ。こんなお高いバーにお互いひとりで飲みに来るとは大層なご身分で。今日はどちらかの奢りでとことん飲んでやろうと思いつつアサヒの横に座った。
すると礼にいがいたずらっぽく笑ってメニューを差し出してくる。

「今日はアサヒの奢りだからちょっとは遠慮してやれよ」
「礼にい!なんで!」

アサヒは驚いたように声をあげたが礼にいはしてやったりと言った表情でその女に微笑みかけた。警察のエースの余裕の微笑に補導歴のあるおれはすこしぞわっとする。
そんな中、彼はなんてことのない世間話のように言ってのけた。

「昨日摘発した詐欺組織、現場に踏み込んだら中の人間が全員気絶していた上に売上金がごっそり行方不明だったみたいだな」
「えー、そうなのー?やだー、物騒な事件だねー」

しかしアサヒはそれに対して気の抜けたとぼけ声で返事をして頬に手を当て微笑んだ。その指にはカルティエの発売されたばかりのリングが煌めいている。ああなんてわかりやすい女なんだろうか。
いい指輪つけてるな、似合ってるぞとメニューを見ながら呟くと彼女はその手をひらひらと振りながらよきにはからえともったいぶった口調で言った。意味をわかって言っているのだろうか。だがまあ、遠慮なく。バランタイン30年をロックで頼んだ。
そして礼にいはしらを切る彼女に苦笑した。

「全くアサヒのおてんばには10年以上前前から振り回されっぱなしだなあ。なあ、マコト」
「ほんとだよ、礼にい覚えてる?アサヒのやつ東池袋の公園の木に登って降りられなくなって・・・」
「ちょっと!マコトそれ以上言うならもう絶対に口聞かないよ」

はいはい、顔を真っ赤にして怒るアサヒに笑った。くるくる表情の変わる女。そんなことを思いながらバランタインの琥珀色を口にする。
そしてそんなおれ達の様子をにこにこと見ていた礼にいがふとアサヒの右耳に目をとめて表情をなくした。こちらからは見えないが、そこにはあのサファイアのピアスがバーの照明を反射して光っていることが容易に想像出来た。礼にいにとって、アサヒが幼馴染の少女ではなく犯罪者予備軍の女王であるということを無理やりにも思い出させる強力な爆弾。
そのアサヒは礼にいの視線に気づいているのかいないのか、涼しい顔でグラスホッパーを口にしていた。こいつはいつまでも変わらない。そう思っていたがおれ達三人の中で一番成長し変わっているのは彼女なのかもしれない。
気の強そうな濃いアイメイク、人工的な長い睫毛の伏し目、妖艶な赤のリップにアークロイヤルのブラウンのフィルターを咥える。

「やあねえ二人とも。難しい顔して黙っちゃって」

そして彼女は全てを見透かしたように蠱惑的に微笑んだ。こうして見るとよく知った彼女のあどけなさなど全く見えなくて思わずぞくりとした。


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