蚊帳の外

「・・・悪いな、なんもしてないのに。飯でもおごる」

あれよあれよという間に購入は終わってしまってタグまで切ってもらった。申し訳ないと身体を小さくすると彼女は気にすることなんてないのにと笑った。しかし苦し紛れにそう提案すると、彼女は目を細めてじゃあラーメンがいいなとなんてことのないように言った。
彼女のお気に入りは具の少ない、澄んだスープのシンプルな支那そば。2杯頼んでも1000円ちょっと。本当にそれでいいのかと再度問うとそれでいいと見慣れた笑みで肯定した。しかし再び鼻を掠めるそれに見合わない煙草の匂い。

「煙草、吸ってるのか」

別に吸っててもいいんだけど。何気なくそんな指摘すると彼女はハッとしたように顔を顰めて手首に着けていたヘアゴムで髪をまとめて縛った。煙草の匂いを撒き散らすのが嫌だったのだろう。それからようやく思い出したかのように言い訳を口にする。

「さっきまでいた友達が吸ってた」

じゃあさっきまでいたその友達はどうした、どうして追われていた、それになんでそんな寒々しい格好を。そんな質問攻めにしたかったが、コートを買ってやったんだから訊くなとばかりにアサヒが牽制してくるものだからその日はなにも訊けなかった。
仕方なく訊くのを諦めたおれは元から着ていたコートをとりあえずと寒々しいアサヒに着せる。
それに対してようやくこちらを真っ直ぐに見て礼を述べたアサヒの顔に違和感。そうだ、今日は唇の赤が濃いんだ。生々しい女の色。今度はおれの方が目を逸らしてしまった。色気のない薄い身体、やんちゃに走り回って、恥じらいなく大笑いして、一緒に同じ布団で眠ったアサヒはたぶん、もういない。わかっていたのに、改めてそう思うと少し寂しい気がした。


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