蚊帳の外

その日の放課後、駅ビルで適当なコートを見繕っていた。安くて、動きやすくて、かっこいいやつ。当然ながら、なかなかいい物が見つからない。いいものは高く、悪いものは安い。自然の摂理だった。格好いいと思って手にとったばかりのコートの値札をみてため息をついた。やはりタカシを連れてくるべきだっただろうか。あいつはいいものを見つけるのがうまい。悔しいことにセンスもなかなかよかった。しかしあいつはここ最近、放課後はずっとGボーイズの集まりがあると言って付き合いが悪かった。仕方がない。あいつは次期キングとなる男なのだ。下々の者と遊んでいる暇はそうそうないだろう。
しかしいくらなんでも毎日そう出突っ張りじゃ大変だろう。近いうちにおれと遊んでいいコートを選んでくれないだろうか。そんな淡い期待を胸に、タカシに約束を取り付けるために携帯電を取り出そうとコートのポケットに手を伸ばしかけたときだ。
その腕に突然人の腕が絡みついた。ぎょっとして、体が強ばる。しかしよく見ればそいつはアサヒだった。艶やかな黒い髪からは嗅ぎなれない煙草の匂いがしたので一瞬だれか判別がつかなかったのだ。驚いて、彼女の名前を呼ぶ声が少し掠れた。

「・・・なんだよ」
「カップルのふりして、少しだけ」

しかしそんなことを微塵も気にせず、アサヒは慌ててそう言う。そしておれが手に持っていた売り物のコートを羽織った。この寒さなのに、制服のカッターシャツ1枚に生脚をさらけだした短いスカート。そしてふたたび彼女がおれに身を寄せるとばたばたと後ろで人が走り去る音がした。こんなショッピングモールで全力疾走。驚いておれは振り向いたがアサヒは居心地が悪そうにおれの腕に顔を埋めるように隠した。
そうして奴らが走り去っていなくなるのを確認すると、彼女はコートを脱いで小さな声で礼を言った。そして脱いだそれの値札をちらりと見る。

「これ欲しいの?お礼に買ってあげるよ」

確かに、デザインや機能性は気に入っていたけど値段で諦めて戻そうとしていた品。しかしこいつに買ってもらう謂れなんてない。だが止める間もなく彼女は近くにいた店員に購入の意志を伝えて、財布を取りだしていた。バーバリーの革財布。おれたちのお小遣い事情は似たようなものだったはずなのに、こいつの家はいまそんなに景気がいいんだろうか。不審に思って眉根を寄せた。


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