池袋サディスティックス

それからまた1週間が過ぎた。
機嫌がどん底のおふくろに叩き出されるように家を出て、まだ大分早い時間だというのにキャバへと向かっていた。そこへ1本の電話。ディスプレイには安藤 崇の3文字。せっかくなので足を止めて道の端によると通話ボタンを押す。もしもし。するとアンダーグラウンドの王の少し申し訳なさそうな声が耳に吹き込まれた。

「ああ、マコト。面倒な仕事押し付けて悪かったな。思いのほか長引いて、おふくろさんにも迷惑かけてるだろうし謝礼だそうと思ってな」
「余計なお世話、かわいい幼馴染のためにやってるんだ。金なんて受け取れない」

かわいいだなんて、本人の前で絶対に言えないけれど。すると電話の奥の男が珍しく言葉を詰まらせた。本気の色恋沙汰となるとクールでもスマートでもなくなると知ったのはここ最近の話。
タカシ?と名前を呼ぶとようやく奴は余裕を装って言葉を紡いだ。

「クイーンは平気そうか」

目の下の隈を覆い隠すメイクを施すアサヒの姿が脳裏を掠めた。あいつはどこまでこの男に報告してるんだろうか。

「あいつと会ってないのか」
「部下越しに連絡寄越してくるだけ。ちゃんと仕事してくれているならなんだっていいんだけどな」

アサヒの声が聞きたいならおれに電話するんじゃなくてアサヒに電話すればいいのに。
はあと大きなため息をひとつつくとモテる割には恋愛偏差値が極端に低い親友に向けて一言。

「もうすぐ片付くだろうよ。お前の出番も来る、全部終わったらあいつにご褒美でも連れて行ってやれよ。おれへの謝礼はそれでいい」

アサヒはどこに連れて行ってやれば喜ぶんだなんて馬鹿げた質問が帰ってくる前に電話を切った。おれより顔がいいやつの恋愛相談だなんて、ごめんだ。


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