池袋サディスティックス

バーと言っても、最近流行りのパブスタイルで店内は程よく騒がしく広めで多少話が盛り上がっても悪目立ちしないのでここ最近のふたりのお気に入りの店だった。
そんな店に入り、アサヒの見慣れた背中を探す。見つけた。
しかしあいつから誘ったくせに、待ちきれなかったのかアサヒは隣の知らない男と談笑している。呆れて帰ろうかと思えば、こちらに気がついたアサヒが一瞬だけ笑顔を消しておれを見据えた。そのまま男に見えないように隣の席を指さすとまたこちらに背を向けた。仕方がない。
おれはアサヒからひとつ離れた席に座って適当な酒を頼んだ。

「えー!すごーい!かっこいいー!」

男の話に合わせてばかみたいな相槌を打つアサヒの声が耳に障る。やたらと高い声で普段の彼女からは到底聞き慣れない単純な褒め殺しの言葉の羅列を聞いた。やっぱり帰ろうか。その前にトイレでも、とスタッフに場所を聞いて立ち上がるとやはりアサヒもお手洗い行ってきますねと立ち上がった。
トイレはおれたちの席から死角にある。アサヒが席から十分離れたのを確認して酒やけ気味の低い声で唸った。

「下手な下ネタばっか。ほんとキモ」
「それで、上品で賢い幼馴染を放ったらかしてそんな気持ち悪い男に夢中になってたのはどうしてだ」
「やだ、なに。妬いてるの、かわいー」

誰が妬くか、タカシにチクるぞ。するとアサヒは仕事だもんだとかそもそも浮気とかそういう関係じゃないしとかぼそぼそと呟きながらスマートフォンを操作して画像を呼び出した。そこには店にいた依頼者の女の子とさっきの男のツーショット写真。

「あいつ、借金残して失踪したはずの男だよ。いま恋人募集中でお金に余裕あるみたいな事言ってた。手口まんま一緒でよく飽きないねえ。次はわたしに借金押し付けて店やめらんなくする気かな」
「なるほど、じゃあお前あいつと恋仲になって借金押し付けられてみるか」
「まあそのつもりなんだけど・・・」

アサヒがはあとため息をついた。そこでとんでもなく酷いことを言ったことに気がつく。

「いや、ごめん。そこまでしなくていいよ。大変だろ。あいつ捕まえて手口吐かせるか」
「別にいいよ、物証欲しいし。さっきも言ったけど仕事だし」

仕事だからって好きな男に知られながらあんなやつと恋人のふりをして、恋人らしいことをすることを強要されるアサヒが可哀想だった。でもあいつはやるのだ。やるなって言われてもやる。アンダーグラウンドの女王としての仕事をこなすため。か弱い人間を護るため。あの強さは真似出来ない。


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