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「おはよう、あなた」

翌朝、仕入れに行こうとダットサンに向かうと度の強い瓶底眼鏡とラフなTシャツにジャージパンツのアサヒが咥え煙草で車に凭れて立っていた。アークロイヤルの重たく甘い紫煙。
昨日とは打って変わった化粧っ気のない馴染みの顔に素っ気なく話しかけた。

「嫁を貰った覚えはまだないんだけどな」
「仕入れ手伝ってあげようと思ったのに小芝居の一つも出来ないなんて。キングもマコトもつまらないんだから」

そして拗ねたようにそう言うアサヒを適当に宥めてキーを開ける。彼女は口を尖らせながらも助手席に乗り込んだ。
そのままポケットから缶コーヒーを2つ取り出してドリンクホルダーにさす。よく出来た嫁だこと。

「あれからエンジェルパークに行ったんだって」
「ああ、お前の言ったことに間違いはないな。京一はひと晩であの日の地位を取り戻した」
「うん、あの人ならやれると思った」

彼女はそう言って笑った。目は笑わずに口角だけ無理やり上げる笑い方。本当は人懐っこいきらきらした笑顔の持ち主のくせに、いつからか彼女はそんな笑い方をするようになっていた。弱みをみせれば骨の髄までしゃぶり尽くされる裏社会に足を突っ込みすぎたのか。
可哀想に思いもしたが、これはキングの横でクイーンとしてあいつを支えると決めたアサヒが選んだ姿なのでなにも言わないでおいた。
そしてありがたくこいつが持ってきた缶コーヒーをドリンクホルダーから抜いて片手でプルタブを起こすと口をつけた。朝のぼんやりした頭にコーヒーの苦味が心地いい。

「それで、本題はなんなんだ。タカシの前じゃ言い出しにくいからわざわざ来たんだろ、あいつを出し抜いて」

するとアサヒはこちらを見ないまま舌を出した。小さい頃からのこいつは悪戯がバレるとこうして舌を出す。
今朝早くにタカシからLINEが来たのだ。またアサヒがいない。行方を知らないか。おれは窓から外を見ると車のところにやつがいるのを見つけて、午前中だけ子守を代わってやるとだけ返事をした。
コーヒーのお礼におれのスマホをアサヒに投げるとやつは思い切り嫌そうに受け取りつつも次々に表示されているであろう、彼女のボディーガードからのLINEを見てますますと顔を顰めた。

「一条くんホント鬱陶しい。ブロックしちゃえ」

一条 優也。タカシとアサヒのボディーガード兼秘書というところだ。
きれるやつだが、母親のように少々小煩いのが玉に瑕。


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