6

アサヒがまた反抗的に舌を出しながらも上辺だけでも謝ったために振動を続けていたおれのスマホはやっと静かになり、ようやく話が進められるようになった。
彼女はまたクリーム色のパッケージから茶色の煙草を抜いてジッポライターで火をつけた。カチンと高いヒンジの音。そしてふ、とアークロイヤルの甘ったるい煙を吐きながら彼女は呟く。

「わたしにはキングのこと、救えないから」
「救うってなんだよ」
「横にいろなんて言って、あいつ本当にわたしを横に置いておくだけ。悩みも罪も一人で背負っちゃって馬鹿みたい。頼ればいいのにさ、わたしの存在意義ってなんなのかしら」

そう言う顔はまるで15年前に駄菓子屋の前で見た顔とまるきり同じだった。お菓子買って、と唇を噛んでほんの少し俯いて、不服さを身体いっぱいに表現する。
運転の合間に横目でちらりとその顔を見てアサヒの深刻さとは裏腹にほんの少し笑ってしまった。きっと彼女はそんな顔をしていることに気がついていない。
くるくると表情を変えるところはこいつの数少ないかわいいところだと思った。

「お前が横にいるだけであいつは救われているんだよ」

そしてタカシはこいつのどこに惚れたかなんて聞いたことがなかったが、きっとこういうところが好きなんだろうなと漠然と感じていた。
だからきっと、こいつを失うのが怖いんだ。家族を一晩で2人も失ったあいつの苦しみは誰にも救えない。でも今はとりあえず、アサヒが元気で横にいてくれるのならそれだけできっと満足なのだ。
金で身体を買って、まだ一度もキスすらしていないというのにもう何年も夫婦のようにアサヒを連れ添わして生きているあいつの歪んだ愛情と執着っぷりにため息をついた。
好きなら好きだと言えばいいのに。あれこれ余計なことを考えて口に出せない臆病で哀れな王さまだ。
こいつはこいつで、何を考えているのかタカシの気持ちを知らないふりをし続けて。
平行線の焦れったい恋愛譚に飽き飽きしていたおれはそれ以上何も言わずに市場の駐車場に車を停めた。
そして車を降りて思わず左腕の匂いを嗅ぐ。甘ったるいバニラ。


/
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -