蛇口を捻れば手にしたホースから思ったよりずっと勢いよく水が飛び出て来て、足元にかかってしまった。靴下に染み込んだそれが不快で、いっそのこと靴も靴下もすべて脱ぎ捨ててしまってほんのりと温かな土を素足で踏みしめる。
そしてゆっくりと花壇に向かって歩みを進めると、先を細く握ったホースをそちらへ向けた。すると虹を描きながら冷たい水が降り注ぐ。夏の暑さによく似合う爽やかな光景に目を細めた。
しかしその時だった。花壇の中からぎゃあと悲鳴が上がり小さな声女の子が飛び出してくる。
「ひどいじゃない!レディ!」
それから腑に落ちない様子の声音で叫ぶ、お団子頭の先からつま先までぐっしょりと濡れてポンチョの裾から水を滴らせている女の子、紛れもなくミイだった。
「ごめんなさい、気がつかなくって」
謝っても彼女は怒り冷めやらぬ風だ。わたしの手からホースを奪い取って先端を向けてきた。すると容赦のない冷たい水が全身を襲う。きゃあと叫んでおもわず縮こまった。
でも刺すような日差しのなか、とてつもなく気持ちがよくて文句を言いながらも思わず笑う。途端に彼女もつられて笑って斜め下に向かっていたご機嫌もまた上昇を始めた。
「ミイ!みーつけた!こんなところにかくれてたの?って、わ!レディ!」
そのうちにかくれんぼをしていたらしいムーミンとスニフもやってきたのでホースの水を思い切りかけてあげる。
彼らは一瞬こそ怒ったけれどすぐにどうでも良くなってしまったようで黄色い声を上げてぬかるんだ泥に一歩を踏み込んでこちらへ向かってきた。そんな夏の日だった。
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