日差しがあまりにきつかった。一度は外に出たけれど、慌てて家のなかに戻るとつばの広い帽子を引っ張り出してきて頭に乗せた。ちょっぴり古臭いデザインだけど、仕方がない。ないよりましだ。刺すような太陽の光は相変わらずだったが、体感では温度が幾分か和らいだ気がするし。眩しさに目を細めながらもほっとため息をついた。

ここ数日のムーミン谷は酷く暑かった。まるでジャングルが出来てしまいそうなくらい。かつては南国の木々が生い茂っていた場所を見ながら思う。
そのくらい酷いものだから、最後は日陰に逃げ込むように小走りでムーミン屋敷の軒下に駆け込んで扉を叩く。すると暑かったよねと労いの笑顔で、ムーミンが出迎えてくれた。今日は彼と遊ぶ約束をしていたのだ。

「おじゃまします、ムーミン」
「いらっしゃい、木いちごのジュースが冷えてるよ」
「ありがとう、本当に酷い暑さね。溶けちゃうかと思ったわ」
「スニフも遊びに来るって言ってたのにまだ来てないから、もしかしたらあいつは途中で溶けてるかも」
「あらあら」

でも恐らく彼は布団のなかで溶けているだろうから大丈夫よ、なんて思いながらムーミンの先導でリビングに向かう。つばの広い帽子はさっと外してソファに置かせてもらった。あとで回収して上に持っていこうと思っていた。
だけど、それからムーミンやミイたちと話がうんと盛り上がってしまったわたしは、つい帽子のことを忘れてしまって。その存在を思い出したのは、帰り際だった。

「レディ、忘れ物よ」

じゃあね、と手を振って帰ろうとしたらムーミンママに呼び止められてくるりと振り返る。その手にはすっかり忘れていた帽子があった。

「あぁっ、ごめんなさい。わたしったら」
「いいのよ、レディ。それより貴方に似合いそうなレースのリボンがあったの。貰ってくれないかしら」

受け取りながらも、謝る。するとママはにっこりと笑ってそんなことを言った。つられて手元を見てみれば、気に入らない装飾だった帽子に、今度は素敵な装飾が施されていた。白いレースが暑すぎる夏に映えて綺麗だった。
嬉しさに舞い上がりながら、帽子を被る。するとちょうど良く心地の良い風が吹いてリボンを揺らした。

「似合ってるね、レディ」

お見送りのムーミンたちは風の中でそう言って笑う。柔らかな風が気持ちいい。わたしはありがとうと手を振った。そして照れくささにそそくさと、でも素敵な帽子に誇らしげに胸を張って、今度こそ帰路に着くことにした。

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